仮面舞踏祭~カーニバルの夜に~
第1章 祭りの夜
風に乗って、何とも哀愁を帯びた調べが運ばれてくる。そのどこか郷愁(ノスタルジー)を感じさせる曲が突如として陽気なサンバに変わった。
途端に、周囲から口笛や野次が上がり、道の両脇に陣取った何列ものカーニバルの見物人が色めき立つ。
次第に激しさを増す旋律に合わせるかのように、人々は思い思いに身体を動かし踊る。
それは、どこか官能的でほんの少しの淫猥さを醸し出す光景だ。
友里奈は熱に浮かされたように身体をくねらせる人たちを横目で見ながら、見よう見まねで踊った。異国の夜は、まるでお伽話に迷い込んでしまったかのように非現実的な雰囲気が漂っている。
そう、カーニバルの夜はここにいる誰もが主人公なのだ。別れた恋人に愛想を尽かされた冴えない私のような女でも、ヒロインになれる。
周りの人たちの興奮が伝染(うつ)ってしまったかのように、友(ゆ)里(り)奈(な)の身体にも弱い微弱電流のような興奮が駆け抜ける。
異国で迎える真夏の夜は、祭特有の熱気を孕んで更けてゆく。時を増すにつれて密はっ濃くなる一帯の空気は、いやが上にも高まる人々の期待のせいかもしれない。
サンバは元々、ブラジルで発祥した音楽だ。時の流れさえ、ここだけは緩やかではないかと思ってしまいそうな中世の名残を色濃く残すこの町とサンバは似つかわしくない。
ひと昔前、この町にはブラジル移民が多く居住していたという。彼等が生まれ故郷の音楽を遠く離れたここヨーロッパのとある小さな国に伝えたというのだが、真偽のほどは定かではない。
友里奈は眼を一杯に見開いた。
いくら強い風が側を吹き抜けたからといって、仮面が飛んでゆくはずもないのに、無意識に片手で仮面を押さえる。
隣に佇む若い男もやはり、仮面をつけている。とはいっても、片眼がね風のそれは、男の端正な顔立ちを覆い隠すのに殆ど役に立っていない。
友里奈の被っている仮面は紫の蝶を象っており、周囲を金の縁取りがしてあり、羽根の部分にはきらめく細かなビーズが無数に縫い付られている。
途端に、周囲から口笛や野次が上がり、道の両脇に陣取った何列ものカーニバルの見物人が色めき立つ。
次第に激しさを増す旋律に合わせるかのように、人々は思い思いに身体を動かし踊る。
それは、どこか官能的でほんの少しの淫猥さを醸し出す光景だ。
友里奈は熱に浮かされたように身体をくねらせる人たちを横目で見ながら、見よう見まねで踊った。異国の夜は、まるでお伽話に迷い込んでしまったかのように非現実的な雰囲気が漂っている。
そう、カーニバルの夜はここにいる誰もが主人公なのだ。別れた恋人に愛想を尽かされた冴えない私のような女でも、ヒロインになれる。
周りの人たちの興奮が伝染(うつ)ってしまったかのように、友(ゆ)里(り)奈(な)の身体にも弱い微弱電流のような興奮が駆け抜ける。
異国で迎える真夏の夜は、祭特有の熱気を孕んで更けてゆく。時を増すにつれて密はっ濃くなる一帯の空気は、いやが上にも高まる人々の期待のせいかもしれない。
サンバは元々、ブラジルで発祥した音楽だ。時の流れさえ、ここだけは緩やかではないかと思ってしまいそうな中世の名残を色濃く残すこの町とサンバは似つかわしくない。
ひと昔前、この町にはブラジル移民が多く居住していたという。彼等が生まれ故郷の音楽を遠く離れたここヨーロッパのとある小さな国に伝えたというのだが、真偽のほどは定かではない。
友里奈は眼を一杯に見開いた。
いくら強い風が側を吹き抜けたからといって、仮面が飛んでゆくはずもないのに、無意識に片手で仮面を押さえる。
隣に佇む若い男もやはり、仮面をつけている。とはいっても、片眼がね風のそれは、男の端正な顔立ちを覆い隠すのに殆ど役に立っていない。
友里奈の被っている仮面は紫の蝶を象っており、周囲を金の縁取りがしてあり、羽根の部分にはきらめく細かなビーズが無数に縫い付られている。