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仮面舞踏祭~カーニバルの夜に~

第2章 白羽根仮面の男

  今夜、自分は他の人にどんな風に映るだろうか?
 傍らに佇む30過ぎのほどの金髪碧眼男は相変わらず友里奈の方をちらちらと見ている。その思わせぶりな視線から、今夜の友里奈は自分が考えていた以上にうまく化けることができたのが判る。
 隣の男がついに意を決したように彼女に向かって何か言いかけたまさにその時、友里奈たちの佇むメインストリートの向こうから金ピカに飾り立てられたカボチャが静々とやってくるのが見えた。途端に周囲から歓声が上がり、傍らでしきりに話しかけてくる男の声は一瞬にして周囲から沸き立つ騒音にかき消された。
 それにしても、大きなカボチャだ。何でもその年に収穫されたカボチャの中で最も大きなものが選ばれるということだったが、今、まさに向こうから大きな荷車に乗せられ、何頭かの馬に引かれてくるカボチャは、大の大人の男が両手で持っても抱えきれないほどの大きさがある。
 その巨大カボチャがこれでもかいうほどペインティングされた上に飾り立てられているのだ。馬車というよりは、装飾過多の御神輿といった感じに見える。
 まあ、この町の人にはこれがごく当たり前に行われている祭なのだろう。その時。
 友里奈はふいに背後から左手首を掴まれた。
-なに、あの男?
 真っ先に浮かんだのは、友里奈の隣にいたあのなかなかのイケメン金髪男である。友里奈はいかにも迷惑げに振り向いた。
「No、no。I came to this town from Japan to see this cornival! Don,t disturb!」
 自慢にもなりはしないが、友里奈は英語なんてまともに喋れやしない。大学の授業では自由選択だったから、怠け者の彼女は選択しなかったし、大学を出てから多少勉強して英検2級は取ったものの、五年も前のことだ。第一、その程度で外国人と対等に渡り合えるはずがない。
 友里奈は思いつく限りの単語を並べ立てた。ここで邪魔をして貰っては困る。退職金半分をはたいて、わざわざ来た意味がない。通じようが通じまいが、とにかくこの手を離して貰わなければ。
 だが。勢いよく片言英語をまくしたてながら振り向いた友里奈は眼を瞠った。

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