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まこな★マギカ

第3章 第二章


「そりゃあそうかもしれないけどよ……」俺はそう言って、カナメの視線を避けるようにうつむいた。正直言って、今の俺には前ほどの気力も自信もない。それどころか、もうどうしていいのかさえわからずにいる。頑張った結果がこの状況なのだ。釈迦力になってようやく掴んだそれは、幻の如くあっさり消えてしまったのだから。俺は下を向いたまま呟いた。「もう、いいんだ、カナメ……」

そんな俺に向かってカナメは尚も言う。「別に、客が全員切れたわけじゃ無いっすよね? それに、これは、前にも言いましたけど――俺、頑張ってるゆうきさんにずっと憧れてたんです! ゆうきさんに憧れてこの業界に入ったんです!」

「うぁ、ば、ばか、なんだよ急に……」そう言ってカナメを見ると、カナメは真っ直ぐに俺を見つめている。そんなカナメの言葉と視線に圧倒されて「や、やめろよ、こんな所で。恥ずいだろうがよ」と言い返す事しか出来なかった――と言うより、カナメのそのどうしようもなく恥ずかしい言葉をこれまでに幾度となく聞いてはいた。だけれども、しらふで聞くのは今日が初めてだったのだ。

「いやいや、前のゆうきさんに戻ってくれるまで俺は言いますよ、何回だって」尚もカナメが言う。

「何回もって、呪文かよ……」――いや、現に、この言葉は、俺にとって呪文のようなものなのだ。特に、今日はいつもよりもその呪力に磨きがかかっている。

「わかったよ、俺の負けだ。店に戻るからよ――だから、もうそれ言うの勘弁してくれよな」カナメのその魔法のような言葉に、俺はラーメンを諦めて店に帰る事を決めた。そしてさらにカナメに向かって言った。「――つうかカナメ、おまえ、俺より十個もパイセンなんだからさ、俺なんかに憧れるなよな」

するとカナメは舌を出し「てへへ」と照れ笑いを浮かべた。

「ローラかよ!」と盛大につっこんでから、俺はカナメの目を真っ直ぐに見据えて言う。「つうかその二人組の客、俺達でものにしようぜ、カナメ」

「ええ、当たり前っすよ」カナメはこたえる。その目にはいつの間にか光が宿っている。

「じゃあ、そうと決まればさっさと戻ろうぜ、パリナに」

そう言って、俺達は再びあるき出した。時計の針が午前三時をちょうど指している頃だった。ラーメンの匂いは、周りからいつの間にか消えていた。







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