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まこな★マギカ

第1章 如章




俺には長年、封印してきたとある記憶がある。それはもうずいぶん前の出来事で、まだ若かった頃の記憶なのだが……と、そんな風に言ったら少々おおげさに聞こえてしまうかもしれないが、別にそれが黒歴史だから誰にも話せなかった、とか、人生の汚点だから記憶の中から消し去りたかった、とか、そういう類のものではない。ましてや、それをとりわけ秘密にしていたのだとか、自分の胸にだけしまって口外しないでおこうとしていた、とか、そう言うわけでもない。ただ、それを話したところでどうせ信じてもらえないだろう、とそう思っていた……だけのことだ。

まあ、でも、信じてもらえないだけで済むのならまだマシとも言えるだろう。おそらく、それを話したところで一笑に付されて終わるか、あるいは“やべぇ奴”だと思われて、それ以降一切口を聞いてもらえなくなる可能性もあるからだ。いや、場合によっては、話している最中に“ペイ中”かなにかと勘違いされて警察に通報される危険性だってありえる。もちろんこれも決しておおげさに言っているわけではない。実際のところあの出来事はそれほど突拍子のないもので、あの時はとうの俺でさえ、これははたして現実なのだろうか、幻ではないだろうか、などとにわかに受け入れられずにいたのだから。

もっとも、少し前までその記憶自体かなりあやふやなものになっていて、むしろあれは幻だったんじゃないか、って、そんな風に思い始めていたのも事実だ。だから、この記憶が完全に消えてしまう前に、この話を誰かに……と言いたいところだが、あいにくそうじゃない。近頃その記憶がふとした瞬間に蘇ってくる。それは決まって朝起きてしばらくしてからだ。

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