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まこな★マギカ

第2章 第一章





時計の針は午前2時をとっくにまわっていた。この場所、中央通りに来てからすでに三時間が経過している。けれども結果は無惨なもので全然手応えを感じていなかった。一応、3人の女からケータイの番号を聞いてはいるのだけれど、おそらくあまり期待はできないだろう。周りを見渡してみても、すでに女の姿はおろか通行人の姿さえ見当たらない。さっきまでドンキーやカラ館の前にいた同業者の姿もいつの間にか消えていてる。その代わりに、カラ館の前には四つん這いで横並びに整列して、狂ったようにゲロを吐きちらしている若者達がいて、この通りにはそいつらと、俺と、わけの分からない風俗の客引きぐらいしか残っていなかった。

ゲロまみれの若者達を見ながら必死で吐きそうなのをこらえ、今日もまた売り上げはゼロか……となかば諦めムードで立ち尽くしていると、コマ劇場の方から若い女がこっちの方へ歩いて来るのが見えた。声をかけなければ、そう思うよりも先に身体が動いていた。その女にかけよると、俺はただちに笑顔をつくり声をかけた。

「あの、こんばんは――」

けれども彼女は、「はっ?」と、尖った声を出しただけだった。おまけにその両耳は奇妙な物体で塞がれていて、声が届いているのかすら怪しかった――と言うか、それはよく見ると、小指が第二関節の辺りで切り取られた手の形をしたヘッドホンだった。

うわ、間違えた――つうかどこに売ってんだよ、そんなの、そう思ったのだけれども、もはやあとにはひけない。「わお、そのヘッドホン超いか――じゃなくて、超イケてんじゃん。どこで買ったの? メルカリ? アマゾン? それとも彼氏からの誕生日プレゼント?」と俺はつづけた。

「はっ」けれども、やはり彼女の反応は相変わらずだった。きわめて薄い反応だ。はたして俺の言葉はどの辺りまで届いているのだろう。

ヘッドホンはひくほどいかついけれど、それ以外の風貌から察すると、おそらくキャバ嬢だろう。顔からはみ出るほどのグラサンをかけて、丹念に巻かれたベージュの髪は、後ろの方で束ねられている。琥珀色の薄手のパーカーを羽織り、黒くて短いひらひらのスカートからは、二本の黒い網タイツが伸びている――その先端にはパンプス。パーカーのポケットにしまわれた左腕にはシャネルのバッグがぶら下がっている。

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