
仔犬のすてっぷ
第22章 Played Fight a Waltz Steps
建物の中は全部の照明が点いている訳ではないが、まばらに点いていても水銀灯の灯りは明るい。
過去にはモノづくりに使われていたであろうものたち……
プラケースや籠、壊れた台車、空の段ボールなど……
今はただのガラクタになってしまったものが所々に山になって積まれている中、建屋中央に二階へ上がる階段があり、その階段の下……降りた場所辺りに事務用デスクが2つ、椅子が4つ置かれていて、そこに彼等は呑気に座り、缶コーヒーをすすっていた。
「……来ましたか…やれやれ。出来れば私は相手をしたくはないんですごねぇ〜…」
そう呟くと、霧夜薩摩は椅子から立ち上がり皮の手袋をズボンのポケットから取り出した。
「二人は…大丈夫なんだろうな?何処にいる?」
「……君が蒼空君か……私の名前は霧夜。霧夜薩摩(きりや さつま)だ。以後、お見知り置きを・・・」
丁寧に頭を下げて会釈する霧夜に、蒼空は駆け寄って胸ぐらを掴むつもりだったが…。
「・・・!?」
一瞬睨まれただけで身体がそれを否定し、動きを止めた。
「……なるほど。感は働くようですね。良かった、無駄な殺生はせずに済みそうで」
「…二人なら、上だよ」
トーマスは椅子に座ったまま、こちらを見ずに漫画を読みながら話をする。
「……少しだけ君達は遅かったかもしれませんよ?さっき、苦しむ様な悲鳴が上がっていましたから………あの坊やはもう、薬と暗示にどっぷり浸かって、身も心も姫様の奴隷・・・別人になっているでしょう」
くっくっく…といやらしい笑いを浮かべ、霧夜は蒼空を憐れむように見つめた。
「・・・まあ、君も姫も、何故あの青年にご執心なのかは理解に苦しむところではありますが」
「テメエには分かんねえだろうよ。人が人を好きになるって事……どんだけ良いもんだって事が」
はん!と蒼空の言葉を鼻で笑い、料腕を広げて霧夜は声を上げた。
「いつ裏切るか分からない人間を好きになるなんて、ナンセンスです。しかし、金は絶対に裏切る事は無い!私が愛するのは、お金だけですよ!」
「・・・分かりやすくて良いな。どうやら遠慮なくぶん殴れそうだ…」
そう呟くと蒼空はファイティングポーズをとって構えた。
