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双龍の嫁

第3章 茶話会


璃胡の後ろでぴくりとも動かず固まっているのは、紛れもなく火龍なのでしょう。

まばらに短く刈られた赤銅色の髪、日に焼けた血色のよさげな肌と風龍を超える堂々とした体躯。

璃胡は『粗暴』『獣』と彼のことを表しましたが、それは若干大仰で見た目だけでいえば精悍、という言葉のほうが当てはまりそうな彼の風貌でした。


わたしたち二人とあきらかに気分を害している様子の火龍。
いままで景色のようにそれらを視界に収めていた潤香が、そそと着いていた席から立ち上がりました。


「ついうっかりしていたけど、わたし、茶屋の先の沢で夫と待ち合わせをしていたのよねえ」


この先、面倒ごとしか起こらないと思えるこの場から退散をもくろむ潤香の言葉をさえぎり、直後この茶屋すべてに響きわたりそうな、火龍のおおきな声が放たれました。


「龍の花嫁がたよ、今しばらくそこに。 状況を整理したい。 ということは、璃胡。 お前が交換したい夫とは、ここにいる水龍と俺、ということで合ってるのか」


えっ? そうひと言言って、ぽかんとした表情の璃胡がようやくその声の主である自身の夫へと、体ごとぶんと振り返ります。

この期に及んでそおっと茶屋の出口へと抜き足で向かおうとする土の嫁を目の端に留めつつも、そんな二人の様子をわたしははらはらして見まもっていました。


「えっ、火龍!? なに、やだ! いつから盗み聞きしてたの!?」

「あのなあ……迎えに行くって今朝話したのに、ちっとも聞いてなかったのはそっちだろうが」


そんな璃胡の悲鳴は年頃の娘が父親に着替えでもみられた、というような類いのもので、彼女にはちっとも悪びれた様子はありません。



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