双龍の嫁
第3章 茶話会
バリバリと自らの髪の中に手を入れてそれを掻きながら、火龍は苛立たしげにわたしの傍に立っている夫にちらりと目をやります。
「われら四龍の始祖、水龍よ。世話になってから久しく会ってこんなことになるのもなんだが、花嫁の名誉のために聞いておく。 お前が俺の嫁をかどわかした訳じゃないよな?」
「火の。 息災でよかった。 きみが以前の花嫁を亡くしたときは、干ばつが続いて私は方々から水を集めて苦労をかけられたっけ」
夫はやや斜め下に視線を落とすと、当時の出来事を思い出したというようにほうと息を落とします。
「いや、あのあれは。 すまぬ。 俺が悪かっ」
「………一時の感情にかられ本来の我らの役目を忘れるきみの悪い癖は、もう治ったのだよね?」
わたしはそこに彼らの歴史……というより、龍の力関係と、水龍の目に見えない圧を感じました。
ぐっと口ごもっている火龍に向かい、夫は額に指先をのせてしれっと言いました。
「ところでなんだったかな……ああ。 ほかの花嫁たちとは、つい先ほど出会ったばかりだね」
鷹揚に答える水龍の言葉で、火龍の顔色がかあっと朱に染まり、璃胡はびくっと肩を揺らし叱られる時の子供のように、小さな体を縮めて火龍から後ずさりました。
「しかし悪いが、初対面の娘の気まぐれに付き合う義理はない。 沙耶、帰ろうか」
彼らから目を外し、いっそ清々しく璃胡を無視した夫は、やわらかく微笑みながらわたしの手を取りその場で踵を返しました。
「なっ……? 待って。 水龍、貴方! 夫を交換するだけなのなら、ことわりにも反さないはずだわ!」
「璃胡? お前はなにを……」