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私淫らに堕ちます

第7章 デート②

「学部でいえば薬学部ですね。主にウイルスについての研究をしていています。先生,聞いたことあると思いますけど,薬って,毒にもなれば特効薬にもなるんですよ。夢のような薬が,使い方を間違えると,人類を破滅に追いやる兵器に変わることもあります。そんなものができてしまったら,人類はどうするんでしょうね?」

 なんだかいつもと違う怖い雰囲気に飲まれそうになる。やがて,悲しそうなそれでいて,後悔が垣間見えるような表情に変わる。

「使用禁止にするとか?」

「そうですね。政府が全体許すはずがないです。ただ,一方で,救えなかった人を救えるというの魅力ではあるんですよ。神にも悪魔にもなれる薬学の世界に惹かれてしまうんですよね。まぁ,ぼくがしてることは,データをとったり,資料を整理したりという雑用なんですがね。」

「どうして薬学の世界に?って普通高校生でそんなことできないよね。」

「母が,この分野の第一人者だったんです。アメリカの大学で研究してて,その時に,いろいろと教えてもらったんです。主に母の助手の人にですけど。母が死んでからは,独学でですかね。薬学の世界が唯一の救いでしたから・・・。」

(まただ・・・どうしてそんな悲しそうな顔をするの?とても普通の高校生がするような顔じゃない。それに唯一の救いって・・・。)

ふと疑問に思ったことを質問する。
「お母さんはどうして亡くなったのかしら?」

今まで雄弁に語っていた彼の身体が固まった。しばらくの間ピクリとも動かず,俯いている。普段の自信満々の姿からは想像もできない姿だ。

「・・・・・・殺されました。」

「えっ?どうして?何があったの?」
あまりにも驚きの告白に,続けざまに質問してしまう。

 言ってしまった後,激しく後悔してしまった。こんなデリケートなこと簡単に聞くもんではない。殺されたことを思い出させてしまったり,余計傷つけてしまたりするのではないか。

「ごめん。ちょっと不躾だったわ。今のは忘れて。」

「いえ。自分も聞いた話でしか知らないものですから。よく分からないんです。もうこの話は止めましょう。」

そう言って,窓の外に視線を移した。外は,完全に夕日が落ち,暗闇へと舞台が変わっていた。

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