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イラクサの棘

第20章 きっかけ

潤side


「なんで、俺なの?」

「ああ、潤にちゃんと言ってないもんな。
じゃあ正直に告白するからさ、
引いたり笑わないでくれよ。」

BGMの音量をしぼって
翔さんの声がよりクリアに聞こえるようにする。


「2年くらい前かな
一枚の絵に強烈に惹きつけられたんだ。
海辺の別荘のおっさんの書斎に飾って
あるデカい絵にさ。」

先生が所有してる海辺の別荘の所在地は
しっていたけど
訪ねたことは一度もなかった。
若い頃の道楽でね
いろいろな芸術的コレクションがあるんだと
笑って仰ってたことがあった。

その別荘は翔さんのお気に入りだった
そうで、幼い頃からよく出入りしてたらしい。


久しぶりに訪れた別荘の書斎に
飾られてあった絵は
きらめく眩しい光の中
背後から描かれている美しい半裸像。

女性とも男性ともとれる優美で
しなやかな背中をしてる後ろ姿
うつむき加減の角度で
美しい唇と長いまつげ
顔ははっきりとは描かれておらず
右耳の下の首筋にある二つのホクロが
印象的な後ろ姿だったそうだ。

 
カンバスの裏には
ヒカリの中の天使
走り書きでそう書かれてあったらしい。


「衝撃的だった。
しばらくその絵から目が離せなくて
恋に落ちた瞬間って言うのかさ。
なんかその絵をずっとみてると
いつの間にか、その絵に描がかれてる
人物に会ってみたいと思うようになったんだ。」


「おっさんに訊ねてもモデルは知らないし
モデルが誰なのか聞いてもいないって
つっけんどんに言われて、
作画したのも元教え子で、
大学は中途で退学してしまったと言われたんだ。」



先生は
その絵をしばらく預かってて、
欲しいって言われたんだそうだ。
けど、半年後には
先生に譲りますのでそちらで
処分してくださいって手紙が届いたらしい。


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