
イラクサの棘
第3章 家族
甘ったるいわたあめみたいな家族
まさか、こんな俺が結婚するなんて
子どもまで出来ちまうなんて
こんなあたたかな家庭を持ってるなんて
たぶん天国の父ちゃんと母ちゃんのおかげなんだろな。
だけど
心の奥底のマグマの塊の残骸が
ずしりと重くのしかかる時がある
潤、
今、おまえはどうしてる?
今更、許しくれとは言えない
俺の事なんて、キレイに忘れ去ってるだろうか
ひどく爛れた劣情ばかりを
自分勝手に押し付けてた、散々に振り回して
おまえの前から去ってしまった
酷い仕打ち
裏切ってしまって約束
潤、おまえはちゃんと微笑えてる?
手離せない現実の暮らし
愛おしいほどおだやかな日常
それらを手に入れられたのは
俺が初めて愛してると思った人を
裏切って得た代償
木漏れ日のさす中庭の芝生の上
昼下がりの午睡
夢うつつの最中で
おまえを視界に捉えた時
俺は天使が舞い降りたと思ったんだ
運命の歯車は
あの出会いから動きだした
許されるなら、もう一度
おまえの微笑みをこの目に焼き付けたい
最後に見た
あの怒りと絶望感の混じった悲哀の眼差し
目の淵に盛り上がる
決壊を待つだけの涙をたたえた瞳
悲痛に満ちた掠れたちいさな声
別れの捨て台詞
潤、もう一度
あの日に戻れるのなら
おまえの声で、俺の名前を呼ばれてたい
俺は、まだ…おまえのことを
好きなんだ …潤
