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小さな花

第9章 Rains and hardens


―――3月になった。


お正月の旅行からも、なんだかんだでほぼ毎週シンくんと会っている。


今日はまた「新しく出来た店に行こう」と誘われ、待ち合わせ場所に向かっているところだ。


約束の18時まではまだ少し時間があり、私は駅前の本屋に目をやる。


店の外に並べられた古本を手に取り、なんとなく流し読みを始めた。




「せいらさん?」


声がしてハッと顔を上げると、そこには…由梨さんが立っていた。


「あ…。」


突然のことに、まともな挨拶も出てこない。


「久しぶりねぇ♪元気にしてた?」


「はい。由梨さんもお元気そうで」


「うふふ。…本を買いに来たの?」


「いえ、ちょっと時間つぶしに…。由梨さんはこちらに用事ですか?」


「シンに会いに来たんだけど、連絡つかなくって。今からアスクに行くところなの」


胸がチクッと痛む。今日は私と約束しているのに…。


「そうなんですね…。あの、じゃあ…私はこれで!」


ぺこりとお辞儀をして立ち去ろうとすると、由梨さんが声を張った。




「せいらさん―――ッ」


振り向くと、強気な顔をした彼女がまっすぐに立ち、私を見つめている。


「…はい。」


私も正面から由梨さんを見た。



「私ね…。シンが好きなの。愛してるの!」


「…」


黙っている私の目を見つめたまま、由梨さんは続けた。


「やり直したいの、どうしても。」


なにも答えられず、しばらく沈黙があった。


ピリッとした空気で見つめ合う私たちに好奇の目が向けられ始めた頃、私はゆっくりと言った。



「どうして私にそれを?」



「…あなた、シンと付き合ってるの?」


質問を返され、すこし気分を害した。


「いいえ」


それでも答えると、彼女はコツコツとパンプスをならして私に近づく。


「協力してもらえないかなって」


私より背の高い彼女を見上げながら、「それはできません」と答えた。


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