
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
「あんな悪人がいるなんて……犯人を滅多刺しにてやりたいわ。この子が何をしたの」
「俺が誘ったりしなければ……」
「もしもの話は、やめてちょうだい。でも、ごめんなさい、ひぐ……ぐす……ああああ……」
仏花と線香の匂いに抱かれて、愛娘を亡くした女と並んで、ゆづるもなり振り構わなくなった。自身の感情に飲まれて泣くのは、幼少期振りだ。やがて父親が帰宅して、親族らが訪ねてきて、彼らが明日の通夜の話を始めると、ふと、ゆづるはひよりの側で、笙子ことが頭をよぎった。
ひよりはまだ恵まれていた。悲しみに暮れる母親がいて、父親がいる。
だがこの広い家で、どれだけ豪勢な葬儀が行われても、彼女自身は戻らない。
笙子を失くした一ヶ月前、ゆづるは生きる意義を失くした。そうした中でも人並みに生活を営めたのは、ひよりの語った夢同然の未来が残っていたからだ。桁外れな幸福など望まなかった。人が呆れるほど平凡と呼ぶ、だがゆづるからすればあまりに眩しい、ありふれた彼女との暮らしがしたかった。
だが夢は、夢に終わった。ゆづるに染みついていた厄が、きっとひよりに伝染したのだ。
明日の通夜の時間が分かると、ゆづるは彼らに挨拶して、帰路に着いた。
父親のいる家に戻ろうという気が起きなかった。数少ないよそゆきの服の格好のまま、ゆづるはひよりとのランチや買い物に使うはずだった財布を握って、ネットカフェの個室を借りた。今朝まで話していた少女とのトーク画面を開いては、また鼻の奥がつんとしたところで、久し振りに見るアカウントから通知が入った。
"お疲れ様です。寝屋川です。佐伯くん、今大丈夫?"
返信出来る気分ではない。身辺の何もかもと関わりを絶って、今にも消え入りそうな余生を、ひよりに向けた懺悔だけでしのぎきりたい。
だが、ゆづるは返信フォームに文字を入れた。どうせ死ねないと分かっている。であれば、二度と連絡をとる機会もなかったはぶのかつてのアルバイト仲間でも、気を紛らわすには、放っておくより望みがある。
