
副業は魔法少女ッ!
第3章 ガラスの靴の正体は
ゆいかはなずなの肩を抱いて、腕や太ももに手のひらを這わす。
すぐるは頭に血が上っている。少しくらい回復魔法を使ったところで、彼でなくても気付かない。
「このっ……」
「黙って下さい」
肩越しに伸びてきたすぐるの腕を掴み止めて、ゆいかは僅かな魔力を込めた。
先月まで、人より体力が劣っていた。そんなゆいかかに、見るからにひ弱な男であれ、その憤慨は抑止出来ない。魔法少女の業務をこなしている時の容量で、手近なタオルをすぐるの手首に巻きつけると、物干し台から適当な洋服を見繕ってきた。
「ただじゃおかないからな……なずな、お前が呼んだのか!」
「八神さんこそおかしいです!頭冷やして下さい!」
「んだと……」
「ゆいかさんっ!」
なずなの手前に滑り込んだゆいかに直撃していたはずのすぐるの足が、宙を蹴った。
「おい」
「なずなちゃん、早く」
涙ぐむなずなにブラウスを羽織らせて、ジャンパースカートを被らせる。ハイウエストの、背中にシャーリングの入ったそれは、ついに震えるだけになったなずなに、ゆいかにでも着用させられた。
すぐるは本性を現していた。体面も取り繕わなくなった彼の主張を要約すれば、なずなの風邪は、彼の強要によるものだった。外出を制限して一週間、目の届く範囲であれば外の空気を吸わせてやろうと連れ出した先で、ついに彼女が講義に出たいと言い出したのだ。
なずなを引きずるようにして、部屋を出た。
階段に続く通路までは抵抗していた彼女も、餌を横取りされた猛獣のようながなり声に肩を竦めて、ゆいかが手を引かなくても足を速めた。
