兄と妹~本能のおもむくままに~
第7章 兄と妹の仮面を捨てる
電気も通っていない真っ暗な部屋で
美穂は膝を抱えて闇を睨んだ。
私が大事なら
きっとここへ啓司が来ると
信じて疑わなかった。
ここは美穂の母親と
啓司の父親が再婚したときに
4人で住み始めた家…
もともとは啓司の父親の持ち家だったが
啓司が明美と結婚して
マンションに入居した際に
置き去りにされた家…
売りに出しているが
いまだに買い手が見つからず
啓司もどうしたものかと悩んでいる物件だ。
啓司が結婚したときに
家具等は新たに購入したために
美穂たちが幼少の頃に使っていた家具も
そのままの状態で置いてある。
床に座り続けるのもお尻が痛くなってきたので
両親が使っていたベッドに
被せられている白いシートを引き剥がして
美穂は横になった。
両親の匂いが残っているかと
ベッドに顔を埋めてみたが
使われていないベッドからは
湿ったカビ臭い匂いしかしなかった。
『ここで独りで暮らしていこう…』
美穂は啓司が
迎えに来てくれなかった場合を想定した。
啓司は大学進学を進めてくれたが、
進学などを考えている場合ではない。
高卒のお給料がいかほどかはわからないが
女独りで生きていけると思っていた。