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老人ホーム

第5章 ちょっとしたハプニング

毎日慣れない仕事と、覚えなければならないことの多さで、テンパっていることが多かったが、班長の田中は、初対面のキツ目の雰囲気とは裏腹に、僕に対しては丁寧に接してくれた。そして説明も論理的で分かりやすかった。

ある日の排泄介助の仕事中、僕は、寝たきりの利用者さんのオムツ交換を田中と2人でやっていた。隣のベッドには、カーテンを隔てて、看護師の本田が僕と背中合わせになる格好で、利用者さんの傷等の処置をしていた。

田中は、僕に色々と説明しながらまず自分でやって見せ、

「やってみて!」

と言って、僕にやらせたりと、教え方が上手かった。田中は、

「やだ〜、そうじゃなくて、こういうふうに、ね?わかる?もう一回やってみて!」

と、楽しそうな口調で教えてくれた。その時、僕の後ろから本田が、


「ちょっとすみませんけど、こっち手伝ってもらえませんか?」

と僕と田中に言ったが、田中は、

「ごめんなさい!こっちも手が離せなくて!」

と言い、僕は、

「すみません!」

とだけ言った。本田は、

「いいわ!一人でやるから!」

と、普通に答えた。

そして、こちらが終わって、僕が、本田に、
 
「手伝いましょうか?」
 
と声を掛けると、本田は、

「大丈夫です!」

と言ったので、僕は、廊下に出ようとして、横を向いたときに、たぶんカーテンの向こうにいた本田のお尻に手が当たったと思う。何となく柔らかい感触があった。僕は、

「あ、すみません!」

と、軽い口調で言い、田中と話しながら居室を出て行った。田中は、楽しそうに仕事をするので、僕は、仕事自体まだ出来ず、情けない気持ちも強かったが、田中と一緒に働くのは楽しかった。





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