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義娘のつぼみ〜背徳の誘い〜

第4章 突然の悲劇

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 七月もそろそろ中盤に差し掛かろうというのに、梅雨はまだ明ける気配を見せない。連日雨の日が続いていた。

 その日、茉由は学校の教室で、窓際の席から薄暗い外の景色を眺めていた。空は灰色の厚い雲に覆われ、今日も強い雨を降らせている。湿度が高く、蒸し蒸しとする教室は、雨で窓も開けられず、ジメジメと湿気がこもっている。夏服の白いセーラー服の下で、汗ばむ肌が少し不快だった。

「それじゃあ設楽さん、次、読んでくれる?」

 五時間目の英語の授業だった。まだ若い女性の英語教師が、茉由を指名した。

 茉由は教科書を手に席を立つと、指定された箇所を読み上げる。発音はまだまだ拙(つたな)いが、途中つかえることはなく、流暢なものだった。彼女は学校では優等生だった。

「はい、よく出来ました。ではその次は――」

 茉由は席に着く。

 設楽さん――か。茉由の名字であり、母親の名字だ。

 でも――茉由は今の自分の姓に違和感を覚えていた。母親は新しい父親、武司と結婚した。名字も武司の姓に変わるのが普通ではないだろうか、と。

 彼女が家に帰ると、扉の横には元々の『設楽』と、武司の姓である『楠本』の、二つの表札が上下に並んでいる。

 両親から理由は聞かされていた。二人が籍を入れたのは、茉由が中学に上がる直前だった。すでに様々な手続きは『設楽茉由』で済ませた後である。学校生活の途中で名字が変わるのは、なにかと不便だろうという、茉由への配慮だ。確かに、それは茉由にも理解できる。だけど――パパの娘なのに、パパと違う名字を名乗らなくてはいけない――それが、彼女には辛かった。武司と本当の親子には、まだなれていないような気がした。

 茉由が高校を卒業したタイミングで、家族全員楠本姓にしようと、両親からは聞かされている。まだ先の長い話だったが、わがままを言って両親を困らせる気はなかった。辛抱するしかなかった。

 決して母親の『設楽』姓が嫌いというわけではない。だが、茉由は武司と同じ名字を名乗ることが、楽しみで堪らなかった。

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