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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第3章 救いの手

=Reika=

私を引き取ったスミレちゃんは、亡くなった母の妹だった。

スミレちゃんは大手出版社に勤める音楽雑誌の編集者で、私が小学校に上がると同時に大きな仕事を任され、深夜近くまで帰宅できない日々が始まった。

放課後一人で過ごさなければならなくなった私は、授業を終えてスミレちゃんのマンションに帰ると、テーブルに置かれた千円札を持って1階にあるコンビニに行く。

お金の計算がまだできない私は、その金額でどれだけのもが買えるかわからないから、仕方なくパンを一つだけ買って食べて空腹をしのいだ。

スミレちゃんが帰る前に眠くなってしまったときは、寂しいのでそのままソファで眠る。




梅雨が明けたある日、いつものように学校から戻って部屋で本を読んでいると、網戸に何かぶつかる音がして、ジジジ、と低くしわがれた鳴き声がした。

見ると弱り切ったセミがベランダに飛び込んで、仰向けに転がっていた。羽を震わせて六本足で空をかきながら死んでゆくセミが怖くて、私は窓を閉めて後ずさった。

ガラス越しに映る黒い影に目を凝らしていると、家の電話が鳴ったので駆け寄って受話器を取った。

決まって夕方電話をくれるスミレちゃんに、早く帰ってきてと言いたかった。

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