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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第35章 さかさ椋鳥

=Reika=

翌日目覚めてテラスの窓ガラスを開けると、灰色の空を背にした紅葉の葉が、細かな雨粒にぬらされていた。

ノックの音がして、部屋のドアを開いた。

早起きの耀は、香さんをたたき起こしてしまったらしく、まだ眠たそうな顔をした香さんと部屋の前に立っていた。

「ママ、昨日は香おばちゃまとアイスを食べたよ」

「あら、ママには内緒ねって言ったのに」
香さんは悪戯そうに笑った。

耀は奥の寝室の遥人さんのもとに走っていった。

「パパ、起きてよ」

ベッドに入ったままの遥人さんがのっそり起き上がると、酒の残り香が匂い立った。

昨晩抱き合った後、遥人さんは久しぶりにリラックスしたのかいつもより多くお酒を飲んだのだ。

「ごめん、耀、黎佳、朝ごはんはパス。できれば午前中は寝ていたい」

遥人さんは両手を顔の前で合わせて謝罪のポーズを取ると、また布団に倒れ込んだ。

耀と私は、おじさまと香さんとともにダイニングで朝食を取った。

「遥人が午前中欠席なら、ここから歩いてすぐの法金剛院で、四人で紅葉を見てまだ戻ってこようか。体調が戻ったら、午後からでも一緒に寺院巡りをすればいい」

おじさまが言った。


朝食後、私たちは歩いて法金剛院へと向かった。

紅葉や楢の葉が赤く染まり、舞い落ちた地面は一面紅い絨毯になっていた。

落ち葉拾いに夢中になる耀とともにゆったりと歩みを進めていると、おじさまが香さんに耀を頼み、二人で観覧しようと私を誘ってくれた。

赤く燃える木々が映りこむ池を、並んで眺めた。

「この池、前に見た気がする。おじさま、私を連れて来てくれたこと、あった?」

「京都は初めてだよ」

「不思議ね…」


美晴と過ごした日比谷公園にも、紅葉が映り込む池があった。

その風景が好きでよく美晴を誘ってぶらぶら歩いたのは、あの場所が不思議な懐かしさを誘うからだった。

きっと、他のどこかに、この公園に似た思い出の場所があるからに違いないのだ、私はそう思っていた。

それがこの法金剛院の池のように思えてならなかったが、そこは今まで訪れたこともない場所だった。

「とてもきれいだね」

おじさまは前を見たまま、私の指にそっと触れた。

どちらからともなく、自然と指を絡めあった。

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