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孤高の帝王は純粋無垢な少女を愛し、どこまでも優しく穢す

第19章 同級生

=Reika=

私は時折、ふとおじさまに会いたくなって、日比谷にある本社ビルの社長室を尋ねることがあった。

おじさまのところにはひっきりなしに来客があって、ゆっくりおしゃべりはできないのだけど、社長室の応接室の隣にある、社長専用の休憩室に息をひそめ、おじさまの話し声をドア越しに聞くのが好きだった。

いつもは優しい話し方のおじさまが、重い金属を打ったような深く響く声で、難しい言葉を並べて部下に指示をしたり、お客様と談笑したりするのを聞いた。

───どちらが本当のおじさまなのかしら、どちらも本当のおじさまなのね。

仕事に打ち込むおじさまを見ていると、おじさまの全てを知っているような気分になれた。



ある時、顧問弁護士の柏木先生が、孫の男の子を連れてやってきた。

柏木先生は笑顔が優しいおじい様で、おしゃべりも楽しい。けれどもおじさまと話すときはその柔和なたれ目気味の目の奥に、深々とした凶暴な影が宿ることがある。

「柏木先生は時折怖いわ」

「そうかな。怖いと言うと語弊があるね。ああいった人を、大人の世界では、キレ者、というよ」

おじさまはそう教えてくれた。

「黎佳はするどいな」

と感心した顔をした後、楽しげに笑ったものだった。


その柏木先生が連れ立ってやってきた孫の漣くんは、ほっそりとして色が白く、茶色いさらさらした長めの髪はまだ女の子にも見えた。

制服であるベージュのブレザーと茶系のチェックのズボンの柔らかい色調が、色素の薄い彼によく似合っていた。

令憧学園中学に通う1年生なのだと言う彼は偶然私と同い年だった。


漣くんはおじい様である柏木先生と同じく、おしゃべりが楽しい人だった。とにかく、ずっと話している。

私はうなずいている以外は抑えきれずに笑っていた。

漣くんのおしゃべりはそのうち身振り手振りまで加わって、話しの途中で、ものまねまで織り交ぜたりするので、私はお腹を抱えて笑った。

「そうだ、これから映画でも行かない?」

漣くんは言うと、私の手を引いて立ち上がった。

「おじい様、出かけてもいいでしょうか」

柏木先生は嬉しそうにうなずき、楽しんでらっしゃいと言った。

「おじさま、いい?」

「もちろんだよ。たのしんでおいで」

おじさまの瞳に一瞬影るものが見えたけど、すぐに笑顔をほころばせた。

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