碧い雨の夜に…
第1章 【衝動的に……】
恋人が出来たのか、と色々聞かれたりするけど「本当ごめん、急いでるからまた今度ね」と退散した。
勿論アキラは追い掛けてきて私の腕を掴む。
「どういうことだよ、マジで相手出来たの?」
いや、嘘です……とは言えん。
含ましておけば良いのか、嘘で固めるのは後々辛いのもわかってるけど、目を覚ませる為じゃん?
私に期待してても時間の無駄だよって教える為。
「うちの子、ヤキモチやきだから大変なのよ」
「うちの子って何だよ、男なのか?」
「顔、怖いよ?まぁ、ご想像にお任せします、帰るね〜」
だからもう、明日からふざけた茶番はナシ……ということで。
綺麗さっぱり終われた気分で居たけど、アキラの中では終わってなかったみたい。
電車を降りるとポツポツ降り出した雨。
早歩きで改札を通り抜けていく。
嘘から出た真……とはこのことを言うんだろうな。
最寄り駅から10分もあれば着くマンションでワイヤレスイヤホンを外して鍵を出そうとした瞬間。
いつもと違う違和感にすぐに気付いた。
もう日課のように視線を向けていたから。
植え込みのところにしゃがんで待っていた人影。
ジャンパーのフードを被っていたから一瞬見逃すところだった。
急ぎ足がピタッと止まってしゃがんでいた相手も顔を上げる。
相変わらずな美貌に見惚れてしまう。
はぁ、と小さな溜息。
幻覚じゃないことを祈りながら近付く。
フードを脱いで同じ目線の高さに自分もしゃがんだ。
「ねぇ、雨降らないと現れないわけ?」
クスッと笑ったら相手もはにかんだ。
2回目の再会もしとしと雨。
手を差し伸べると細い手は握り返してきた。
「軽っ!ご飯食べてる!?」
ついそう言ってしまったけど、モデルだから仕方ないか…と思った。
「食べてるよ、リセちゃんは?元気だった?ごめんね、また来ちゃった」
細いジーンズ、汚れを払ってあげる。
手が冷たいから「いつから居たの?」と聞いたら「さっき着いたよ」って優しい嘘。
「お持ち帰りして良いのー?」
軽めに聞いて軽めに流してもらおうとした。
ただそれだけなのに鼻の頭赤くして潤んだ目で頷くのとか本当あざといよね。
世の中の女子が手に入れたい技を簡単にやってのけちゃうとかさ。