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秒針と時針のように

第2章 顔を見た瞬間からの嫌な予感

 カン。
 靴底がジムの鉄棒に跳ねる。
 オレンジ色に染められた校庭と、ピンク色の西空。
「実はオレ、都立中に受験することになった」
 風が止まった。
 体重を支える腕が震えた。
 通称都立中。
 地元で治安最悪の中学。
「嘘、だろ」
 拓の瞳が下がっていく。
 伸びた二人の影を見下ろして。
「早く教えようと思ってたんだけどさ。先生には言ってある」
「だって普通に第一中行けば……」
「母さんがね」
 遮る強い声。
 拓自身ハッとして表情をやわらげた。
「母さんが、病気になっちゃって。都内の中央病院に入院してんの。よくわかんねーけど大変らしくて、仕事も辞めてさ。父さんは単身赴任だから帰ってこれないし。で、その近くに引っ越すことになってさ。そこから通えんのが都立中だけで」
「引っ越す?」
 その四文字だけが響いた。
「そう。卒業したらすぐ……だから、忍と離ればなれになっちゃうな」
 泣き笑いして。
 一気に色々言いやがって。
 わかってんのか。
 今月末修学旅行だぞ。
 みんなその話題しか頭にないんだ。
 どうせ卒業しても全員が同じ中学に行く。
 そう思ってるから、入学するまでてめぇがいなくなったのわかんねーんだぞ。
「忍」
「……ふざけんなよ」
 不意に洩れた言葉。
 拓が強張る。
「だから嫌だったんだよ……てめぇみたいな自己中と仲良くなんのなんか大嫌いなんだよ……結局あのババアと同じか。自分の都合で行くんだろ。散々……くそ」
「……」
 違う。
 こんなこと言ってる場合じゃない。
 拓が見れない。
 何も着てない上半身が急速に冷えていく。
 頭も一緒に。

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