秒針と時針のように
第3章 最初の事件
つい話題が苦手な方向に流れてしまったので、オレは口をつぐんだ。
「彼女ねえ……拓はいねえの?」
これだ。
毎月のように尋ねられるこの質問。
返答も同じだ。
「いねえって」
「いそうなのにな」
忍の相槌も一緒だ。
オレはふとさっきの「好き」という言葉を思い出した。
バッと口を塞ぐ。
またニヤけてしまいそうだったから。
「なにしてんだ?」
「いや。なんでもない」
今夜は自分がおかしい。
早く寝たほうがいいかもしれない。
「もう十二時過ぎてっからそろそろ寝ようぜ」
「結城は締め出しちゃうか」
「そうしよ」
「あはははっ。朝が楽しみだな」
電気を消す。
そのパチンという音がやけに響いた。
暗闇の中で一時間。
寝付けない。
隣のベッドをチラッと見ると、寝息を立てる忍の顔が思ったより近くにあった。
眉間にシワがなく、安心した寝顔は可愛いなんてもんじゃない。
睫毛の長さが強調され、妙に色気がある。
風呂から上がってから赤みを帯びたままの唇。
ほんのり紅を差したような頬。
浮き出た鎖骨。
まじまじと眺めてしまう。
思い出して、カメラを取り出した。
バインダー越しにもう一度その姿を見て、ついカメラを下ろしてしまった。
まるで、神聖なもののような気がして。
シャッターをきれなかった。
「忍」
「ん……」
意識はないのか、唸っただけでまた寝息を立てる。
ひとつだけ点いたベッド際のライトのオレンジの光に照らされた部屋。
なんだろう。
どきどきする。
静かにベッドから降りて、忍に近づく。
脈拍がどんどん上がる。
熱くなってくる。
―拓のこと好きなんだろな―
言葉が脳に響く。
ゆっくりと黒髪を撫でる。
「んん……」
「忍。オレも好きだよ」
それはもう、衝動だった。
なにも考えずに、オレは顔を近づけていた。
唇が数瞬触れ合った。
柔らかい感触にはっとする。
「ふ……んん」
顔が離れた途端、忍が目を開けた。
「彼女ねえ……拓はいねえの?」
これだ。
毎月のように尋ねられるこの質問。
返答も同じだ。
「いねえって」
「いそうなのにな」
忍の相槌も一緒だ。
オレはふとさっきの「好き」という言葉を思い出した。
バッと口を塞ぐ。
またニヤけてしまいそうだったから。
「なにしてんだ?」
「いや。なんでもない」
今夜は自分がおかしい。
早く寝たほうがいいかもしれない。
「もう十二時過ぎてっからそろそろ寝ようぜ」
「結城は締め出しちゃうか」
「そうしよ」
「あはははっ。朝が楽しみだな」
電気を消す。
そのパチンという音がやけに響いた。
暗闇の中で一時間。
寝付けない。
隣のベッドをチラッと見ると、寝息を立てる忍の顔が思ったより近くにあった。
眉間にシワがなく、安心した寝顔は可愛いなんてもんじゃない。
睫毛の長さが強調され、妙に色気がある。
風呂から上がってから赤みを帯びたままの唇。
ほんのり紅を差したような頬。
浮き出た鎖骨。
まじまじと眺めてしまう。
思い出して、カメラを取り出した。
バインダー越しにもう一度その姿を見て、ついカメラを下ろしてしまった。
まるで、神聖なもののような気がして。
シャッターをきれなかった。
「忍」
「ん……」
意識はないのか、唸っただけでまた寝息を立てる。
ひとつだけ点いたベッド際のライトのオレンジの光に照らされた部屋。
なんだろう。
どきどきする。
静かにベッドから降りて、忍に近づく。
脈拍がどんどん上がる。
熱くなってくる。
―拓のこと好きなんだろな―
言葉が脳に響く。
ゆっくりと黒髪を撫でる。
「んん……」
「忍。オレも好きだよ」
それはもう、衝動だった。
なにも考えずに、オレは顔を近づけていた。
唇が数瞬触れ合った。
柔らかい感触にはっとする。
「ふ……んん」
顔が離れた途端、忍が目を開けた。