秒針と時針のように
第5章 一周してわかること
「ほら。さっきの道左だったじゃねえかよ、てめえがこっちだって言うからっ」
「忍だってそう言えばそうだったな……って納得したじゃねえかよ、同罪だっ」
あの奈良の法隆寺を目指したあの時間を彷彿させる。
オレは自転車に乗りながら汗を拭う忍の横顔を眺めて思った。
国道に田舎道に住宅街。
どこを走っていても話が途切れることは殆ど無かった。
「拓。ストップ」
「えっ、どうかしたの」
急ブレーキをかける。
忍の視線を追うと焼肉亭に止まっている。
「夕食……」
オレはその背中を押した。
「はいはい。肉は宇都宮で一杯食おうなー」
「まだ埼玉だろうが……」
大宮にさしかかってきたあたりでオレ達は一泊目のビジネスホテルにチェックインし、駅前の洋食レストランに出かけた。
ネットで見つけたワンコインレストランだ。
「疲れた……もう明日電車で帰ろうぜ」
「はえーよ! 忍群馬の温泉宿までは粘るって言ってたじゃん」
「だって温泉だぞ。あの貸し切り風呂とはレベルが違えだろ。硫黄とか想像もつかねえし」
頼んだハンバーグオムライスとサラダが運ばれてくる。
オレはハンバーグを、忍はサラダを交換する。
「じゃあ頑張ろうぜ」
「いただきます」
「もしもーし」
「食事中は静かにしろよ」
「どっちが始めたんだよっ」
一日目とあって二人はホテルに帰るや否やすぐに眠った。
先に起きたほうに朝食を奢るという賭けをして。
雪が降りそうな寒空の下、コンビニから出る。
近くの公園のベンチで携帯を弄っていた忍が呼ぶ。
「パシリお疲れー」
「どうせオレは寝坊野郎だよ……」
「メロンパン、メロンパン」
「はい、どうぞ。プリンセス」
「大義であった」
「そこは王女口調だろっ」
「いただきまーす」
一緒に買ってきたココアも渡す。
こうして二日目が始まった。
今日の目標は群馬の草津の温泉宿だ。