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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき

「古城拓さんですね」
 誰だ。
 大人の男の声。
「はい……ですけど」
 結城が顔をしかめる。
 だがオレのアイコンタクトで忍じゃないことが伝わったらしい。
 水を飲みながら耳を澄ませる。
「私、都立赤島病院の石津という者ですが、岸本忍さんの携帯に貴方の番号だけが家族として登録されていたので連絡させて頂きました。恐縮ですが直ちにこちらにいらしてもらえませんか」
 目線が店のメニューをさ迷う。
 どこに集中すればいいのかわからない。
 結城も見れない。
 嫌な悪寒だけがぞわぞわと背中を這う。
 首をナニかが巻きついてるみたいだ。
 じわりと米神が熱くなる。
「忍に……なにかあったんですか」
 声が自分のものじゃないみたいだ。
 しばらくの沈黙。
 それが苦しかった。
 その間は息もできないほどに。
 早く言ってくれ。
 インフルエンザ第一号だったのか。
 肉が足りなくて職場で倒れたのか。
 今すぐ迎えに行くから。
 早く。
 頼む。
 そんな重い空気を流すな。
 頼む。
 早く。
 結城が肩を掴む。
 真剣な眼差しで。
 遠くでパトカーのサイレンが鳴る。
 この街は毎日事件に溢れてる。
 けどそれは全部が他人事で。
「落ち着いて聞いてください。岸本忍さんは事故に遭われて……」

 カミサマ。
 こんなときだけ貴方を責めるのは卑怯でしょうか。

 携帯を耳に押しあてながらガタリと椅子から降り、走って店から出る。
 結城が何か叫んだが、オレは駐車場の車に飛び乗った。
 鍵を折るスピードで回し、素早くナビで赤島病院を入力する。
 距離はそれほどない。
 十五分。
 死ぬほど長く感じた。

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