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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき

 遠くでサイレンが鳴ってる。
 オレはここから出てはいけないのだけど。
 世界は知らない事件に満ちている。
 オレ以上に無関心な忍がそこにいた。
「忍っ」
「よお、拓」
 けど忍に手は届かない。
 そこにいるのに。
 ガキン。
 脚が無くなった。
 けど痛みはない。
 ただ、足の感覚が消えただけ。
 それだけ。
「忍! もっとこっち来いよ!」
「どんな口説き文句だよバアカ」
 けど忍はゆっくり近づいた。
 そう。
 まずは否定から入るんだ。
 受験の時も「嘘だろ」から入ったように。
 壁の向こうで忍が笑む。
 口角を持ち上げて、不敵に。
 挑発するみたいに眉をくっと上げて。
 目の前の壁に張り付いて忍を見つめる。
 これさえなければ。
 ダン。
 殴った反動で視界が揺れる。
 そうだ。
 ずっとこれが邪魔だったんだ。
 これさえなければ。
 ダン。
「忍! 好きだ! 忍……」
 ピシとヒビが入る。
 忍だけはハッキリ見える。
 瞬きもせずにオレを見てる。
 真っ直ぐに。
 ちゃんと聞いてる。
 そう伝えるみたいに。
「お前がどんなに悩んだって一緒に悩んで考えてやっていこう。オレたちなら大丈夫だ、きっと。愛さえあればどうにかなる」
「やっと出てきた告白まで馬鹿みたいだな」
「真面目にいってんだ! ちゃんと聞け」
「はいはい」
 忍が笑ってる。
 呆れながら。
「オレは一生お前を守る。もう二度と傷つけたりしないし、お前から目を離さない」
「ストーカー」
「それでもいいっ」
 パキパキと破片が足元に落ちる。
「忍と一緒にいたい」
「おせーよ……遅すぎ」
 割れた棺から抜け出した途端見たのは、大きな黒い幕。
 バサリと上から落ちてきて忍を消した。
 ぞくりと背筋が凍った。
 見てはいけない。
 震える指を幕の隙間に差し込む。
 少しずつ開いていく。
 白い布と紅い染み。
 その下に横たわるのは……

「うわぁああああっ」
「起きろって! 拓」
 ゆさゆさとオレを揺すぶる結城。
「気絶したんだって? すげえ暴れたって聞いたぜ。なにがあった」

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