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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき


 黒い服。
 黒い髪飾り。
 黒い靴。
 どこを見ても黒。
 葬儀って、こんなに重々しかったか。
 母さんの時は、もっと……
 沢山人がいる。
 中学の同期、高校の同期。
 忍の職場の仲間。
「古城くん……久しぶり。本当に、岸本くん死んじゃったの?」
 忍のクラスの女子だっけ。
 オレの目を見たら泣きながらどっかに行った。
 みんながオレに声をかける。
 けど何一つ入ってこない。
 みんななに云ってんだ。
 なに泣いてんだ。
 オレになんて云ってほしいんだ。
 誰かの涙を見る度、眼が乾いていくようだった。
 オレは泣かない。
 いつのまにかそんな意地さえ。
「古城拓って貴方ね」
 今度は誰だよ。
 苛々しながら振り向くと、美しい婦人という形容しか出来ない女性が立っていた。
「忍の……母さん?」
 直感だった。
 彼女は頷いてオレを見つめた。
 頭から足先まで。
 大きな瞳で。
 紅い唇を結んで。
 それから言った。
「貴方だったんだ。忍が結婚したいほど好きだった男は」
「え?」
「そっか。そっか……」
 ふっと花に囲まれた忍の遺影を彼女が見たから、オレもそっちを見た。
 来てから一度も直視してないそれを。
「私と縁を切ってまで一緒にいたいんだから、貴方スゴいわね」
 強い、人だ。
 言葉尻から感じる。
「オレはなにもスゴくないですよ……どういう意味ですか、それ」
「厭だわ、あの子言ってなかったの? 死ぬまで秘密にしてたの」
 どくんと血が心臓を揺らす。
「秘密?」
 忍の母は、静かにオレの頬に触れた。
 あ。
 似てる。
 忍の眼だ。
 体が暴走しそうになるのを必死で押し止める。

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