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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき


 封筒の口を開く。
 左手で中を膨らませるよう力を入れて、指をそこに入れる。
 カサリ。
 紙だ。
 引き出してみる。
 四つ折りにされた紙片。
 生唾を飲み込む。
 数秒間迷ってから、それを広げた。
「この変態め。やっぱり俺が見てない間に見つけやがったな」
 噴き出してしまった。
「こんな書き出しがあるかよ……忍」
 わかってたんだ。
 じゃあ、いつか読むオレに宛てた手紙?
 ドクドクと米神に血流を感じる。
「これをてめぇが見てるんなら俺はまだ言えてないんだろうな。情けない。結局こんな手紙なんてダサい手でしか伝えらんねえんだ。拓。今なにしてる? 俺を怒らせて自宅待機中か。大学卒業してたらやだな。どこまで俺は臆病だって話だ」
「今なにしてる、じゃねえよ……」
 涙が頬を伝う。
 日差しがカーテンの隙間から零れてくる。
「俺がアメリカ行ったの覚えてるか? なんで留学なんかっててめぇは駄々こねてたよな。そんで就職はアメリカ関係じゃないんだから不思議に思っただろ。いや、思わないか。てめぇは」
 そうだ。
 確かにそうだ。
 今さらだ。
「あっちで知り合った奴が、その……同性愛の専門家っつうかなんつうか。書いてて意味わかんねえけど、とにかくそこで俺は色々法律とか学んだんだよ、マジで」
「は? なにしてんだよ、忍」
 それを真面目に学んでる忍を想像して笑いが込み上げた。
「で、俺は! クソ、字でもやなもんだなコレ」
 そこから勢いに任せたみたいな字体。
「俺はてめぇと一生一緒にいたいんだ」
 瞬きを何度かした。
 脳に文字が入ってこなくて。
 心臓が止まったかと思った。
 紙をクシャクシャにしてしまいそうなくらい手に変に力がこもる。
「し、のぶ?」
 嬉しいのに。
 涙が止まんないのに。
 聞きたくて聞きたくて仕方なかった言葉なのに。
 唇が震える。
 言葉が見つからない。
 カチカチ。
 カチ。
 瞬きを何回しても世界が濡れてる。
 忍。

 なんで抱き締めたいのにお前はいないんだ

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