もうLOVEっ! ハニー!
第8章 優越鬼ごっこ
口のなかが乾いているのを感じつつ、質問してみる。
「……あの。その、奈己先輩と亜季先輩は……その、そういうご関係なのでしょうか」
笑っていた奈己の口がゆっくりと真一文字に変わる。
静かにこちらを見て。
そして、壁から離れて近づく。
なんでしょう。
あの日、つばるが部屋に入ってきたときのように足音が響く。
心臓が落ち着かない。
奈己は目の前で止まり、少しだけこちらに屈んだ。
「……どういう関係?」
耳をくすぐる低音の穏やかな声。
「え……えと……」
唐突に私の頭を撫でた手が首筋に降りてくる。
ゆるゆるとうなじをなぞり、肩に落ち着く。
ぞくぞく。
怖いような、気持ち良いような……
「キスして、舌を絡ませて、セックスする……そんな関係?」
かあっと熱くなる。
見上げると、奈己はまっすぐこちらを見下ろしていた。
「可愛い……真っ赤ですね」
中指の間接で頬をなぞられる。
ぞくぞく。
夕陽が山に沈み、紫の闇が下りてくる。
「……ん」
声が漏れてしまった。
あまりに優しく顔を撫でられるから。
奈己が徐に顎に指をかけ、自分に向かせる。
無言で三秒。
いや、もっと?
ばくばく煩くてわかりません。
綺麗な唇が動く。
「いけないことをするのはお好きですか……?」
目を細めて。
見入るように。
魅入られているのは私なのに。
カチカチ……
秒針が鳴っている。
どれだけそんな緊張が続いたのでしょう。
奈己はふっと笑い、手を離した。
「……なんてね」
壁に戻る背中をぽかんと見つめる。
振り返った奈己が爽やかに含みのない笑顔を見せた。
「僕は亜季しか眼中にありません。僕の生きている価値はあの人だけです。それだけは揺るぎようがありません」
「……え」
余りに移り気な態度に戸惑ってしまう。
「ただね」
そこで語気が弱まる。
「亜季は……ルカを思っています。これも揺るぎようがない事実です」
窓から校庭を見下ろしながら。
聞くに耐えない切ない声で。
「僕は男です。身長もルカより十も高くて、取り柄は幼少時からのピアノくらい……まあ、バスケは人並みですかね」
このあいだの話でしょう。
「なんでだろう……ね」
奈己が目線を静かに私に向ける。
「なんで僕は男なんでしょうね」