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もうLOVEっ! ハニー!

第8章 優越鬼ごっこ

 夕飯の席にも、美弥とつばるはいなかった。
 こばる先輩に尋ねても、わからないと言われた。
 一体どこに行ったんでしょう。
 サボりは別に珍しくないかもしれない。
 でも、何か胸騒ぎが止まりません。
 何か、重大なことが起きそうで。
 常に二人のことを考えて。
 いえ。
 それだけじゃない。
 寮の全員のこと。
 ぐるぐると。
 陸先輩、早乙女兄弟、村山薫、管理人さん、なる先生、三年方。
 キャンプ場で話したガク先輩。
 色々案内してくれた尚哉先輩にマリケン先輩。
 お茶会を開いた蘭先輩。
 一つの建物の中に、奇妙な人達。
 浴場に向かいながら考える。
 どうして。
 ぺたぺたと足音が鳴る。
 どうして、みんな、私に優しくするんでしょう。
 今までの私を否定するかのように。
 誰も私を拒絶せずに。
 無視せずに。
 勿論、過去からそのまま来た人もいますが。
 角を曲がった瞬間大きな体にぶつかった。
 汐里さんだった。
 いつもの料理人の格好でなく、作業着で。
「っと。だいじょぶ?」
 尻もちをついた私を大きな手で助け起こす。
「なんで女湯から出てきたんですか」
「ああ。大した理由じゃない。湯沸かし器の方が壊れてしまってね、修理していたんだ。まだ復旧しそうにないがね。だから、今日のところはシャワー室を使ってくれないか」
「あ、はい」
 ぺこりとお辞儀してそばを通り過ぎようとする。
「かんなちゃん」
 呼び止められて、振り返る。
「大丈夫?」
 ああ、どうして。
 この方までも。
 私はにこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。シャワー室、お借りしますね」

 先の使用者がいた。
 シャワーは二台。
 洗面所の方で着替えを抱えて待つ。
 水音だけが響いている。
 眼を瞑る。
 ぷらぷらと足を振りながら丸椅子にもたれて。
 この寮はどうしてこんなにも備品が多いんでしょう。
 部屋も多いし。
 お金が沢山あるのかな。
 ぼんやりと考える。
 シャワーの音が止まった。
 いつの間にか眠気が来ていたようで、脱力した身体を起こす。
「あり? かんなだ」
「……美弥さん」
 バスタオル一枚の美弥が現れた。
 白い湯気を漂わせながら。
 もうひとつのシャワーを使っていた人物は先に出たようだ。
 ぽんと私の頭を撫でる。
「ボクは美緒だよ?」

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