もうLOVEっ! ハニー!
第9章 本性探し
両手を伸ばしたのも意識の外。
暖かい背中に顔を埋めて、必死に美弥を止めようとしていた。
「……離して。かんな」
「イヤです」
力強く抱き締めたつもりが、あっさりと解かれてしまう。
あっという間に抱き締め返されていた。
全身包むように。
人通りの少ない廊下とはいえ、美弥の肩越しに見えた日常に体が熱くなる。
「美弥さん」
「許して」
「……美弥さん」
「ボクそろそろおかしくなりそう。かんなが誰かに苛められてるなんて想像しただけで泣き叫びたくなる。可愛い可愛いかんな。かんなを傷つけるなら自分すらも許せない」
「私は、美弥さんに沢山助けてもらいました」
背中を優しく擦る。
「まだ自分すらわからない私になんて言えば良いかわかりませんが、私は、美弥さんを嫌いになることなんてありません」
「……かんな」
互いの顔を見つめる。
「美弥さんは、先輩で、頼れる隣人さんで、憧れの人です」
「嬉しいことばかり言うね」
「本心ですよ?」
「んー。ありがとう。そこにまだ愛が入ってないのも知ってる」
気まずい沈黙が降りる。
美弥はがしがしと髪を掻き乱した。
「また、ボクって……」
「綺麗な髪がくずれちゃいますよ」
前髪の隙間から私を見つめた美弥が、力強く引き寄せた。
よろりと倒れそうになる反応で顔を上げる。
目の前に男の眼をした美弥さんがいました。
あ……
シャワー室以来の距離感。
濡れた姿が重なる。
「大好きだよ。かんな」
するりと離れた腕を追う力もなく、美弥は階段を下りていった。
顔をペタペタと触る。
どこも落ちてないですか?
溶けて滴ってないですか?
今更息が詰まりそうなほど心臓が騒ぎ出す。
「……おせえんですよ」
胸元のシャツを握り締める。
ふらふらと教室に向かった。
ー本気やでー
ー大好きだよー
ーかんなは王女だからね。特別ー
ーあの時本気で君が好きだった。今も変わらないー
峰清龍。
貴方まで出てきますか。
脱力して、教室の扉に手をかける。
喧騒の中を見回す。
あの、動画の彼女。
いるんでしょうか。
この中に。
今は、いないみたいですね。
席に座り、数学の予習を忘れたことを思い出してないことにする。
一体なんの目的で……
それが解けるのはいつでしょう。