もうLOVEっ! ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束
私もずっと、男友達という存在をそばにもったことがなかった。
いや、友達すら。
長らく。
最後に気兼ねなく笑ったのは、小学一年生の時だった。
彼女が転校してから、私は孤独に愛された。
「好きって、どういうのかわからない。かんながガク先輩と話してるとイラつくし、宝塚にもムカついてる。こうして手を触れてるのも結構怖いって言うか。ただ、かんなとセックスしたいとかそういうんじゃない。そういうんじゃないだよな」
この人は……
手を引きたいのに、力がでない。
これ以上純粋な気持ちに触れていたら、壊れてしまいそうです。
「彼氏になりたい」
単純にして、明確な欲求。
ガク先輩の先行した「好き」とは違う。
つばるの独占欲とも違う。
隆人さんのようなからかいも含まない。
だから……
「っ、かんな? 泣いてんの?」
重力に従って頬を濡らしていく涙が止めどなく溢れてしまう。
この人の好きは、奥まで入ってくるから。
優しく。
恐ろしく。
鼻を啜り、瞬きをする。
ぽたぽたと手の甲に落ちる水滴。
少し塩辛く、さらさらした滴。
「私、尚哉さんのような方に早くお会いしたかったです……中学のうちに」
そしたら、もっと。
容易く。
でも、手を引き抜いてしまう。
尚哉の手が、虚しくテーブルに残される。
「かんな……」
「もっと、尚哉さんのこと教えてください。それから、友達から……」
ぐっと眉間を寄せて歪んだ世界を流す。
「私、全然そんな、愛してもらえるような綺麗な女の子じゃないんです」
ああ。
吐いてしまおう。
この人は、私にありのままに告げてくれたのだから。
胸にしまって葬ろうとした松園かんなに救いの光を浴びさせてやろう。
「私……二回、違う人に……許してしまったんです。だから、綺麗じゃないんです……」
口許を押さえて涙に耐える。
吸気が肺まで降りてこない。
息苦しい。
苦しい。
「関係ない」
ぴたりと波が止まるように。
あっさりと私の悲しみを止めた。
「関係ねえよ。そんなこと」
尚哉は、苦く笑って立ち上がると、私のそばに膝をついた。
目線を同じくさせるように。
「ただそいつら殺したいけど。俺がこれからかんなの彼氏になって守ってやりたい」
殺気を振り撒いた告白は、珈琲の香りより鼻を刺激した。