もうLOVEっ! ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様
昔々、あるところにお姫さまが住んでいました。
美しく、清く、優しく育ったお姫さまは、毎日のようにバラ園を手入れしていました。
ある日のこと、いつものように手入れをしていると、触れてはならないバラの茎の中の滴が腕に垂れてしまいました。
昨晩の嵐で茎が折れてしまっていたのに気づかなかったのです。
お姫さまは倒れてしまいました。
そこに隣国の王子が現れ、お姫さまの濡れた腕に触れて彼女を抱き締めました。
すると、どうでしょう。
お姫さまの腕から香しい華が咲き乱れ、この世のものとは思えないほど麗しい蝶に二人は姿を変えたのです。
「……こうして、二人はいつまでも幸せに」
これほど単純ならば。
現実だって。
音を立てて埃を散らし閉じた本の背表紙に両手を置く。
図書室には司書しかいない。
静か。
物語に、没頭できる。
蝶々の影が二つ踊る。
「いつまでも、っていつまでなんでしょう」
かんなは小さく呟いた。
閉館時間が過ぎ、荷物を取りに教室に向かうと、夕日が差し込む空間に一人だけ佇んでいた。
窓辺に体を向けて、机にもたれかかる。
黄金の陽射しを受け止める髪は、その兄のように金色に輝いている。
「……つばる?」
呼ばれた本人はハッと振り返った。
机を床に擦らせて。
「か、んな? お前まだいたの?」
「図書室に」
「最近は先輩達と一緒じゃねえんだ」
「そっちこそ」
教室に入れないのは、つばるがもたれ掛かっているのが私の机だからです。
偶然、なわけねえですよね。
秒針のない時計は静けさを一層深める。
「なんつーか、最近皆さん忙しいみたいで」
「こばるさんも?」
「兄貴ね……多分」
もう沈んでしまった夕陽の朱色をなんとか探すように西の空を見つめて呟く。
「あの、なんで……」
「あ?」
震えそうな手で、スカートの裾を掴む。
小さく息を吸って、肩の力を抜いた。
「なんで、そんな疲れた顔をしてるの」
ああ、二つの影が固まっている。
おとぎ話のように楽しく踊る影なんて見たことないです。
「あー……お前見る度なんか疲れるんだよな」
「失礼な」
「マジで」
ずくん、とその一言が胃の辺りに刺さる。
「私だって!」
すっと此方を刺す眼孔に汗が噴き出す。
「わ、私だって……疲れてますよっ」
身勝手で発展のない二つの不満。