もうLOVEっ! ハニー!
第12章 騎士は王子と紙一重
着信があったのは、自己嫌悪を鏡の中で確認していた時だった。
登録していない番号に眉を潜めつつ、画面を親指で軽く押しつぶす。
濡れた髪を乱雑に掻きながら、ベッドに腰掛けた。
「もしもし?」
「ふははっ、お前いつ掛けても不機嫌だなー? つばる」
「博也……っ」
消したのに。
忌々しい中学の縁なんて切ったのに。
たった三か月ぶりの声。
つい左手の指を擦り合わせていた。
「なぁんで俺にすら連絡くれなかったわけ?」
左の眼の下がぴくぴくと疼いている。
「別に」
「ははっ。今月末の来るだろ」
「あ? 行かねーよ」
「来いよ」
ばふっと倒れて、天井を睨む。
最後に見た博也の顔が浮かんでは醜くゆがんだ。
思い出したくもない、忘れもしないあの日。
かんながいなくなったから。
それだけで崩れた。
そもそも、機能なんてしていなかったんだ。
あのクラスは。
「お前がいないと盛り上がんねーんだよ」
「てめえがリーダーになったんだろ? 勝手にやってろ」
「つれねえなー。俺がそっち行ってもいいんだぜ? バカんなもいんだろ。つか飽きただろ? あいつだけじゃ」
吸い込んだ空気が喉元で止まり、息を詰まらせる。
薫からどこまで聞いているんだ。
じわりと滲んだ汗が冷えてくる。
「つばるって割とわかりやすかったよなー。バカんなだけは他の野郎にヤらせなかったし、自分でもヤってなかったんだろ? 古風っつうの、古いんだよ。その癖卒業したら焦って追いかけてやがんだろ」
「威勢がいいな、博也」
「だって俺三か月も会ってねえもん。怖いとか忘れたなあ」
人をイラつかせるのが上手い奴だよ。
くそが。
「本当にさー、見る目ないよな。薫ちゃんにしときゃーいいのに」
「マジかよ。あの腹黒女なんかよく抱けるな」
関係まで持ってるのか。
早い。
まだ一学期だぞ。
なんでこんなに早く壊しに来るんだよ。
放っておいてくれればいいものを。
「柚と舞花も会いたがってんだから、来いよ。バカんなも連れて。迎えに行ってやるからさあ。そっちの、なんつったっけ。華海都寮……とかいう」
危うく切りそうになった。
「居留守なんてしないよな? つばる」
頭の中をぐるぐると。
かんなをどこかに逃がさなきゃ。
こいつに会わせないように。
湯浅か錦か兄貴か。
誰に預ければいい。