もうLOVEっ! ハニー!
第15章 何も叶えぬ流星群
図書館のカフェでアイスコーヒーを飲んでいた矢先、岳斗の言葉を反復する。
「ペルセウス座流星群?」
「そ。結局天体観測おじゃんになったやろ。隆人に申請出して、八月最初の土曜に屋上で出来そうでな」
「寮生全員参加ですか?」
それにしては何の通達も来てませんが。
「ちゃうちゃう。キャンプメンツやな」
華海都サークルメンバーを思い浮かべる。
どうしても気が重くなる。
事件以来話せていない人が沢山いる。
両手をキュッと組んでテーブルの木目を見つめる。
「強制参加……ですかね」
「まさか。でもええの?」
「えっ」
何を言うのか警戒してしまう。
岳斗は備え付けの紙ナプキンで唇を拭いながら続けた。
「叶えたいことないんか」
予想外の言葉に間抜けな笑いが漏れてしまう。
「ふはっ、おもろい反応」
「いえいえいえ。そりゃありますけど」
神様は救ってくれませんが。
流れ星はなんとなく聞く耳を持ってくれる。
だから天体観測は行ってみたい。
「迷います……」
「俺はひとつやけどな」
「なんですか」
クイッと片眉上げて微笑む。
「卒業しても、恋人のままで」
真っ直ぐな温かい言葉に顔を伏せてしまう。
今鏡で確認したい。
自分がどれほど情けない顔をしてるか。
「ちょお、顔上げ。無視は恥ずい」
「嬉しいですけど、なんにも回答思い浮かばなくて……嬉しいです」
「嬉しいんかい。ならよかった」
八月最初の土曜ということは、あと十日ほど。
きっとその頃までには返事を出してる。
自分に向き合ってくれた人達に伝えてから。
きっと。
いつものように夕方のオレンジの光を背に、寮の入口に辿り着くと、丁度尚哉がヘッドフォンをしながら出かけようとしていた。
こちらを見て数瞬固まったが、すぐに足早に横を通り過ぎようとする。
その肩を岳斗が、ポンと叩く。
尚哉は苦虫を噛み潰したような顔で、心底嫌そうにヘッドフォンを外した。
「……なんすか」
「話あるからついてってもええかな、くー」
「好きにしてください」
「かんなは先に帰っててな」
呼び止めようとしても、男二人は夕暮れの木立の中を歩いて行ってしまった。
私が話すべきなのに。
尚哉さんに話したいことがあるのに。
颯爽と連れ去って行った岳斗の行動力に為す術もなかった。
大人しく部屋に帰る選択肢に従った。