もうLOVEっ! ハニー!
第16章 台風の目の中
蘭は夏休みの間もバイオリンと紅茶を嗜みに部室に通っていた。
人形のベリテーネを相手に一人で過ごすことも多いが、受験勉強に嫌気が差した茜が遊びに来ることもしばしば。
そこでは決まって取り留めも無い話が飛び交う。
「それで奈己はコンクールで総ナメにしてたらしいんだけど、入園してからは一切表に出なくなったんだって」
「名前で検索して出てくるなんて素晴らしいわね」
「あたしもなんか目指したいなー。名前で検索してトップに偉業とか憧れる」
「生涯あたりめ摂取量ギネス登録でもしてみては」
「そういうんじゃないんだよー蘭。わかってるだろー」
「そういえば先日尚哉が訪ねに来てたわ」
「いや珍しすぎ!」
「音楽の道に進みたいんですって。可笑し」
「教えてあげんの?」
「面白そうですもの」
ふふふ、と微笑んで紅茶を一口。
正直難儀ではあったけれど、真剣に学ぼうとする人間に音楽の話をするのは楽しい。
それに、と蘭は付け加える。
「とぉっても楽しい嵐が落ち着いちゃったじゃない」
「寮の恋愛事情のこと? でもでもさ、美弥と陸はくっつくと思う?」
「あの雌豚ちゃんが心の性別変わるとしたら、相手は漆山ではないでしょう」
「やっぱそうかなー。純粋すぎるか」
互いに寮内で恋愛対象がいないからこそ、そもそも現在興味が無いからこそ、こうした話題は盛り上がる。
美弥の急変ぶりには目を見張るものがあった。
かんなと岳斗が付き合い始めてから、急速に美しさを増して、口数が減った。
もともと女性味が高い外見ではあったが、洗練された表情に陸が夢中になるのも頷ける。
「でもなんて言うかさー、生物学的に? 強いオスって恋愛にやっぱ強いよね」
茜が角砂糖を緩くかき混ぜる。
「身長高くて腕力強くて、スポーツできて頭もいい奴が結局は恋愛成就するわけだ」
「同級生に嫉妬も無様なものじゃない?」
「いやあたしも仮に男で? 岳斗と同じスペックだったら? 恋愛に興味も湧いたかもしれんなーって」
悪戯に蘭が茜の手に指を絡ませる。
「そんなの関係ないってくらいにこじ開けてみる?」
「そのケはないっす」
「つまんないわね、茜」
「いやほんと、生まれてこの方抜け落ちてるから」
「生殖能力?」
「広い意味ではね」
終わりのない会話を楽しみながら、蘭は一学期を思い返していた。
役者が何だか足りない気がするのよね。