もうLOVEっ! ハニー!
第16章 台風の目の中
階下の住人が直接訪ねてくるとは。
「電話でもいいのに」
こばるは動揺を隠せずに額をポリポリとかく。
かんなは迷惑だったかと頭を下げて、要件だけまとめようと頭を回転する。
「あの、バイトについて、採点バイト? ガク先輩がこばるさんから教わってと聞いたので」
「なんだ。ガク先輩公認なら話しやすいからいいや。ちょっとまってて、資料持って食堂行く。先行っててー」
パタンと閉じた扉に、ふーっとため息を吐く。
彼氏となった途端に名前を出すのが緊張しますね。
かといって名前を出さずに進める話でもないですし。
食堂に向かって歩いていると、遠くから部活の掛け声が響いた。
ああ、そろそろ夏季強化練習ですかね。
野球部に、サッカー部に、テニス部。
そういえば、バスケ部。
こばるが駆け足で追いつく。
ちょうど思い立った考えとリンクするように、半袖短パンの体操着。
「オレこれから部活だからさ、これ読めばわかるやつ。きったないメモしてるけど読み飛ばして!」
じゃ、と手を上げてこばるは玄関に走っていった。
バスケシューズを片手に揺らしながら。
食堂に入ると同時に、司が声をかける。
「やあ、かんなちゃん。今どのくらいお腹すいてる?」
カウンターに座る清龍に目線を合わさぬように、端の席に腰かける。
「アイスひとつくらいです」
「ちょうどいい! すいかジェラート上手くできたから食べてってよ」
汐里も顔をひょこりと出す。
「黒いの種じゃなくてチョコチップだから、安心して召し上がれい」
本当に親子みたいですよね。
ふふ、と笑いが漏れてから、渡された資料を広げる。
登録会のリンクに、説明会の概要。
送られてくる資料とやるべき業務。
バイトは未経験。
普段テストを受ける身が、採点をしてもいいものなのか。
小中学生の提出物が対象で、ひとまず胸を撫で下ろす。
学期末テストの順位は真ん中より少し下。
入寮試験時よりも、求められる範囲もハードルも桁違いで、日々ノートとの戦い。
二年後に自分も受験できるのかと不安になる。
「はい、どーぞ」
司がトン、と置いた鮮やかな赤いジェラートに、つい気分が晴れやかになる。
長くて軽いスプーンを片手に、サクリと一口削って口に運ぶ。
「わ、美味しいです!」
「やったね! 師匠これメニュー入れてよ」
「仕方ないな」