もうLOVEっ! ハニー!
第17章 深い底まで証を
かんなは頑なに首を振る。
それでストールがズレているのも気付かぬように。
「なんにも……ただ、具合が悪くて」
そっと手を伸ばし、首筋に手の甲を擦り付ける。
ビクッと跳ね上がったかんなが、手を払い除けてストールでそこを隠した。
明確な拒絶に空気が凍る。
かんなもしまったと言わんばかりに狼狽える。
「ご、ごめんなさい……」
「言いたないのはわかる。無理やり聞く気もない。ただ、その態度続けられんはちょっとキツい」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
責めたい訳じゃないのに。
味方だって伝えたいだけなのに。
どうにも崩れぬ壁に無力を感じる。
そっと、手を握る。
強ばった小さい手。
「あんな、聞いて欲しいんやけど。俺はかんなが何を隠しとっても、何を裏でしとっても、絶対に味方でおるよ。約束する。絶対傷つけん」
ポタリと。
握られた手に涙が落ちる。
重症やんけ。
たったこの数日で。
一体何が……
「あ、りがとうございます……あ、の……私、痴漢にあって、触れられてしまって……それで、ガク先輩にもう触ってもらえる立場じゃ、なくて」
震える声が心臓を突き刺す。
「は? ほんまに?」
つい声が低くなってしまったので、急いで抱きしめる。
あかん、頭熱い。
「……どこで?」
「あの、通帳を、作りに行った日に……隣町で買い物もしようと、電車に乗って……そしたら、夕方のラッシュで、混んでて」
かんなの顔は見えない。
見ようとするのも酷だろう。
ぎゅーっと抱きしめる腕に力が篭もる。
「後ろに立ってた人が、触ってきて……そのまま、抵抗できなくて、次の駅で、連れ出されて……」
それでも脳内が嘘の気配を探してしまう。
有り得ん話じゃない。
矛盾もない。
この頃の態度に置き換えれば、納得する話。
でもなんや、このざわめきは。
「だから、先輩に、顔見られたくなくて……体も……生理って嘘ついて、ごめんなさい」
「かんなが謝ることちゃうやろ。駅員さんとか、周りの人は気づいてくれなかったんやね。怖い思いしたな、助けれんくてごめん」
抱きしめつつも、心が遠い。
せやったら、なんで今日の電車は平気そうやったん。
俺が壁になってたからか。
それにしても、リンクせん。
どこに綻びがある。
指摘すべきなんか、それは。