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もうLOVEっ! ハニー!

第17章 深い底まで証を


 ぴしし、と。
 さっきよりも異音が響いた。
 フェンスがたわんでいる気がする。
 額がつきそうなほど顔を近づけたつばるが、腹から絞り出すような声で続ける。
「あいつがどんな決意でここに来たのかわかりもしねえで、簡単に踏みにじりやがって……このまま好き勝手出来ると思ってんなよ」
「いじめっ子はお前の方だったんだろ」
 手に力がこもり、首が締め付けられる。
「ああ、そうだよ」
 やばいな、ぼーっとしてきてる。
 首じゃない、頭痛がおかしい。
「あんたはなんで、かんなに手を出した?」
 それを話すには三年前の凶行からになる。
 松園めいに追い詰められ、近所の男たちに襲われ、母親は宗教と男に狂ったあの時期の、全てを説明しなければならない。
 したところでなんになる。
 正当な理由なんてない。
 そこに、純白のか弱い少女がいた。
 腕力で好きにできる存在があった。
 欲情のままに手を出した。
 今も同じだ。
 手に届く場所に手に入れたい存在がいる。
 高尚な理由なんてない。
 愛とも違う独占欲。
 他の男が触れられぬように。
 穢し尽くして自分のものに。
 思考がぐらつく。
 そんな醜いものだけじゃなかったはず。
 岳斗との幸せを祈ったこともあった。
 遠巻きに見て満足した日もあった。
 許されたくてもがいた瞬間もあった。
 末に身勝手に嫉妬の炎を燃やして、暴行を選んだ。
「お前には分からない」
 つばるの眼に色濃い殺意が宿る。
 おもむろに一歩踏み出したかと思うと、胸元に肩を埋め込むように、ぐいとフェンスに押しこまれる。
 ぴしぴしっと音が連鎖した。
 傾く視界で見えたのは、金網の切り口。
 何十もの交差する点が、ペンチで切ったかのように離れ離れになっている。
 襟首を掴んだまま、つばるとともに背中から宙に飛び出す。
 伸ばした手は何も掴まない。
 そうか、落ちるのか。
「俺もあんたも退場した方がいい」
 地面に着く前に聞こえたのは、暗い声だった。

 ゴールを告げる笛が鳴る。
 アリーナに歓声が満ちた。
「ガク先輩! ナイッシュー!」
 亜季のはしゃぐ声に、寮生の拍手が続く。
 コートの岳斗は笑顔からすぐに切りかえて、速攻で攻め返してきた相手のドリブルの前に立ちはだかる。
 キュッキュと足音が響く。

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