もうLOVEっ! ハニー!
第17章 深い底まで証を
隆人に連絡が入ったのは一回戦終盤だった。
電話が鳴り、会場から出て耳に当てる。
ああ、二回戦どころじゃなくなった。
汐里に事情を伝えて、他の寮生には言わないようにと車に急いで乗り込んだ。
その様子を、手洗いから戻ろうとしていた奈己が見ていた。
観客席に戻り、かんなの横顔を眺める。
夕方、どんな表情に変わるだろうと考えながら。
病院につき、レントゲンを撮り、何が何だか分からぬまま病室に運ばれる。
容態によっては、家族に連絡だろう。
清龍は白いカーテンの向こうの空に目をやる。
つばるは頭を強打していたようで、検査時間が長くかかっていた。
どうせなら……
どうせなら、記憶でも飛ばしてくれたら良かった。
無意識下でも受身を取り、急所を守ったであろう体を見下ろしてため息を吐く。
肋骨数本、大腿骨、両足首骨折に脱臼。
リハビリ含めて冬までかかるらしい。
幼稚だが、結果は出したわけだ。
もうあの寮には、暫く戻れない。
かんなを呼び出すこともない。
携帯も初期化されてしまったし、めいの連絡先も消えたかもしれない。
このまま、機種変して番号も変えてしまおうか。
記憶喪失にならなかった分、電子だけでも新たにするのもいいかもしれない。
飲み物ひとつ、自由に飲めずにナースコールを押す。
「あの、一緒に運ばれた早乙女つばるどうなりました? 同じ寮生で後輩なんです」
忙しそうに所作が雑な看護師に尋ねる。
業務を止めてくれるなと目線を送られるが、神妙な声で答えた。
「意識はまだ戻らないけど、命に別状はありません。明日には会話できると思いますよ」
キビキビと退室していく。
今更ながら、状況のヤバさを実感する。
明日にでも寮生らが見舞いに来るだろう。
司が誤魔化したとしても、細工されたフェンスからつばると共に落ちたことは変わらない。
こばるに何て言えようか。
ノックが鳴る。
扉を見ると、隆人が立っていた。
「意識大丈夫? 清龍」
「俺は……俺より、つばるが大変です」
「司は喧嘩としか言わないけど、本当のこと話す気持ちになれそう?」
スリッパをパスパスと言わせながら、隆人がベッドのそばまでやってくる。
「何があったの」
ああ、飲んだばかりなのに喉が渇く。
大人の存在は、思考に冷水をかけてくる。
愚行をさらに思い知らせる。