もうLOVEっ! ハニー!
第17章 深い底まで証を
病室から出た隆人は、頭を抱えて廊下のベンチに腰を下ろした。
何が起こったんだ。
自分も鳴海も汐里も留守の今日に限って。
いや、今日を狙ったのか。
腕時計を見る。
そろそろ一日目最後の試合か。
勝ち上がっていれば、ベスト十六に入る。
汐里と肉でも買って焼肉パーティーでもしようと、今朝は話していたのに。
「とんだ一日だ……」
携帯を取り出して、階下に向かう。
こばるが病院に着いたのは、つばるが運び込まれてから七時間後。
エレベーターから降りて、目当ての病室に早歩きで向かい、扉を開いた。
「つばる……お前、なにやってんだよ」
口から出たのは情けない声。
四人部屋の窓際のベッドに横たわる弟。
点滴の管が刺さり、幼い顔に戻ったように穏やかに眠っている。
ベッドのそばに膝をついて、すがるようにその手を握りしめた。
「なあ、つばる。勝ったぞ。信じられるか。強豪校ふたつも倒したぞ。オレ今日は得点王までとったんだよ。見せたかったよ……お前に、すげえって言わせたかったよ」
握り返さない指に涙が溢れてくる。
足音がして、岳斗とかんなが現れた。
面会人数に限りがあるとのことで、他の寮生は先に寮に戻されたのだ。
二人はベッドの向かいに立ち尽くす。
「つばる、起きろや。応援にも来んで勝手すぎるやろ、お前」
声が震えて小さくて、涙がこぼれる。
かんなは言葉が出てこなかった。
目線が揺らぎ、混乱ばかりが頭を占める。
たった二時間前まで寮生みんなで笑い声を上げて、勝利を祝福してたのが夢のよう。
なんで。
どうして。
「こばる、隆にいが呼んどった。家族連絡についてらしいで」
「マジすか……こんなとこに親なんか来て欲しくねえよ。絶対拒否してきます」
涙を雑に拭い、肩を怒らせて出ていく。
岳斗はそれを見送ってから、かんなに声をかけた。
「水でも買ってくるわ。ここで待っとってな」
ああ、気を遣わせてしまった。
残されたかんなは、岳斗を振り返りもせずにつばるを見つめた。
なんで来なかったんですか。
何してやがるんですか。
なんで、清龍さんと。
そっと手を伸ばして、つばるの頬に触れる。
確かな体温に少しだけ安堵する。
「起きてください……必ず起きてくださいよ」
思い出すのは、いつも、ハンカチを手渡す姿。
過ぎた不器用の結果がこれですか。