もうLOVEっ! ハニー!
第19章 友情の殻を破らせて
ルカとアンナの触れ合いを日々目の前にして、何故耐えられるのだろう。
神聖視しているのかもしれない。
誰よりも気高い空気を持ち、学業とモデル業を両立するルカを。
相手にされないのを悟りながら、友人の位置に落ち着いて幸せに縋り付いて。
自分もおなじか。
この三角形にハッピーエンドは無い。
それでも三人は離れない。
ルカなら他の二年とも打ち解けられるはずなのに。
起こさぬようにベッドから降りて、散歩でもしようかと階下に降りる。
真っ暗な食堂を過ぎ、玄関へ。
足音が近づいてきたかと思えば、散歩から帰ってきた岳斗と鉢合わせた。
「おう。おはよ、奈己」
「おはようございます。引退してもウォーキング続けるんですか」
靴を脱ぎ、下駄箱にしまいながら岳斗が笑う。
「別にトレーニングちゃうし。お前とおんなじ。ひとりで静かに考えごとしたいからや」
「おや、見抜いてますか」
追撃はせずに、ヒラヒラと手を振って岳斗はシャワー室の方に歩いて行った。
夏休みに入ってからだろうか。
つばると峰清龍が落ちてからだろうか。
入学以来太陽のようだった岳斗の顔に、隠しきれない影が過ぎっているのは。
靴を履き、まだひんやりとする空気の中、開いていないであろう校舎に向かう。
そこに佇むピアノに呼ばれるように。
小鳥の声が歌うように左右から聞こえる。
ふと、華海都寮を振り返った。
木立の向こう、そびえ立つ。
その屋上のフェンスは修復され、高さを変えられ、鍵は隆人でなく、学園の職員室に保管された。
天体観測などのイベント時のみ、レンタルが許される厳重体制だ。
あそこで何があったのか、結局全容は落ちた二人にしかわからない。
当時、寮にいた美弥の話だと、大砲でも打ったかのような音が響き、しばらくしてサイレンの音に焦って一階に降りたらしい。
通報した司はその後、食堂にいると涙ぐむようになって、汐里から料理は休むように指示されたらしい。
また目線を校舎に戻す。
警察沙汰の後に救急車。
流石に休み明けには特殊指導でも入りそうだ。
校舎前のベンチに腰かける。
園芸部が手入れをしている玄関前の花壇は、夏休み中でも潤いを保っている。
これから水やりが来るかもしれない。
しばらく思案したあとで、亜季の待つ部屋に戻ることにした。