もうLOVEっ! ハニー!
第20章 秘密のシャーベット
仕上がったアンナは妖精のように美しく、近づいてくると息を忘れてしまう。
「どう? 変わるでしょ? アリスには負けてらんないんだから」
まだ私服のままなのに、既に雑誌から出てきたようなオーラが放たれます。
「そういえば、今日はアリスさんは来ないんですか」
「うん。あの子は来週かな」
目線だけは皆、緋鷺の手元に。
ヘアバンドで前髪を上げられて、なんとも言えない顔でメイクをされる岳斗を見守る。
「あ、そろそろアンナ出番。ルカも向かおうか」
小脇の言葉に二人の背筋が伸びる。
「挨拶したら戻るから、かんなちゃんはここに居てね。緋鷺さん、この子よろしく」
「りょうかーい」
阿吽の呼吸のように。
残されてから、そーっと鏡の方に近づく。
まさか撮影だけでなくメイクを見れる機会をもらえるなんて。
鏡越しに視線が合うと、恥ずかしくて叫びたいように口をモゴモゴしていた。
笑いが込み上げるのをそっとこらえる。
「君らルカとアンナと同じ学園なんだよね。二人はやっぱり目立ってるでしょ」
「アンナはわかんないですけど、ルカは目立っと……目立ってますね」
「平日撮影とか入ると学業休まないとでしょー。寛大な対応してくれる学校て中々ないからさ。あ、錦くんは受験生だっけ」
「はい……」
「あ、すっごい悩んでるね。今日のチャンスも進路に関わってくるもんね」
目の下をポンポンとコンシーラーで塗っていく。
「緋鷺さんは、なにかメイク師になるキッカケあったんですか」
「そうだねー。七五三てあるでしょ。七歳の時にメイクされるのが楽しすぎて。親のメイク道具で遊びまくってたのね。で、高校からは校則緩いとこで毎日練習して、美容系の学校に進んでって感じ」
「すげえ……俺は特化した趣味はないんですよね」
「でも筋トレは欠かさずやってるでしょ。自分の体を大事に維持するのだって才能のひとつだよ。それに髪質も肌もすごくいい。咎さん興奮しそうだなー」
会話しながらも、アイシャドウを引く動作はすごく安定していて、緑とゴールドがキラキラと。
ヘアバンドを取ると、長い櫛でスイスイと分け目を作って流れを整えていく。
完成系が見えているような迷いのない手さばき。
「どうかな、彼女さんの感想は」
「え、と。似合ってます、すごく」
「ねー。緑似合うよね、錦くん」
耐えきれないとばかりに岳斗は口を押えた。