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もうLOVEっ! ハニー!

第6章 思惑先回り

「ガク先輩」
「んー?」
 選手用観覧席で試合を見終えたこばるが岳斗に声をかける。
「たしかつばるの奴バスケ相当強いですよ」
「見てりゃわかるでー」
 それでも声に余裕が漂う岳斗。
 パキポキと指を鳴らしながら控室に入る。
 置いてあったスポーツ飲料を飲みほして腕を回す。
 他の二三年は明らかに怖気づいていた。
 会話は聞こえないがつばるという単語は聞き取れる。
「あかんなあ」
「えっ」
「これ本気出さんとあかんかなあ? なあ、こばる」
 そうニヤリと笑って彼は出ていった。
 インターハイ出場歴のある錦岳斗。
 その実力はまだ計り知れない。
 一年の頃の試合ではつばると同じく二十点を得た彼だからこそ今のつばるを見て滾るものがあるのかもしれない。
「……オレ出る幕なさそう」
 こばるは力なく頭を振って会場に出た。

 出てきた選手の中に岳斗とこばるを見つけて思わず笑いが広がる。
 無意識に手を組んでいた。
「先輩っ、がんばってください!」
 声援に気づいた岳斗がこちらを見て手を振る。
 なんて余裕綽々な。
 私は不安を抱えながら手を振り返した。
 けれどそこではたりと手を下ろす。
―一目惚れしたからやで。他の男に手出されるん嫌でね―
 あれは本心だったんでしょうか。
 拳を握って試合を見守る。
 向かい合った両チームが握手を交わす。
 岳斗は狙ったかのようにつばるの前に立って手を差し出した。
 傍から見てもわかるくらいの冷たい火花。
 楽しみです。
 純粋に、この試合の成り行きが面白そうです。
 私は今だけつばるの脅迫も岳斗の約束も忘れて見入った。
 ボールが飛ぶ。
 右に左に。
 鋭く鈍く。
 足音と地面に擦り付ける踵の音が鳴り響く。
 館内に木霊する。
 いいですね。
 この感じ。
「そっち行ったぞ!」
「わかってるっつの」
 つばるが腕を振って走る。
 一足先にボールを捕らえた岳斗が飛びながらこばるにパスを渡す。
「ナイスキャッチ、こばる」
「ぜってぇ止める」
 ゴール下についたつばるが殺気立つ。
 兄と弟が一つのゴールを賭けて向かい合う。

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