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幸せな報復

第21章 義美の生い立ち

「ごめんね……義美……」
 その夜、沢子は静かに命を絶った。
 義美が中学三年生になった春のことだった。
 母の突然の死は、義美の日常を一瞬で奪った。
「どうして……お母さん……」
 食卓に座っても、もう沢子はいない。
 家の中は不自然なほど静かで、義美はその静寂に押しつぶされそうだった。
 そんな義美にとって、残された家族は養父の宗男だけだった。
 宗男は以前よりも義美に優しく接するようになった。
「無理するな。おまえはまだ子どもなんだから」
 そう言って頭を撫でる手は、どこか必要以上に長く留まる。
 義美は違和感を覚えながらも、その温もりを拒めなかった。
 母を失った寂しさを埋めるように、宗男の存在へ依存していったからだ。

*

 ある夜、宗男はふいに口を開いた。
「おまえには姉がいるんだ」
「……姉?」
 義美は目を丸くした。
 初めて聞く話だった。
「双子の姉だよ。名前は仁美」
「どうして今まで教えてくれなかったの?」「事情があったんだ」
 宗男は曖昧に笑っただけだった。
 双子の姉——仁美。
自分と同じ顔を持つかもしれない存在。
(どんな人なんだろう……)
 義美の胸に、言いようのないざわめきが広がった。
会ってみたい。
 自分とは違う人生を歩んだ姉は、どんな表情で生きているのだろうか。
 義美はぼんやりと天井を見上げながら、まだ見ぬ姉の姿を想像した。
 彼女は、貧しい家庭で育った自分とは正反対の暮らしを送っているであろう仁美に、一目だけでも会いたいと心から願っていた。
 義美は、まだ幼いにもかかわらず、宗男から過剰な執着を向けられていた。学校へ通ったことはなく、同年代の子どもたちと接する機会もほとんどない。

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