テキストサイズ

どこまでも玩具

第7章 阻まれた関係

「……どう致しまして」
「一つ、訊きたいことがあります」
 瑞希が低い声で呟いた。
 下手をすれば、聞き逃してしまう程の小さな声。
 しかし、確かにそう言った。
「……いいよ」
 煙草を取り出そうとするが、箱は空だった。
 頭痛がまた来ている。
 吸い過ぎかもしれない。
 軽く頭を押さえ、瑞希に近づく。
「正直に答えて欲しいんです」
 肩が震えている。
 声も。
 首が回り、両眼がこちらを向く。
 随分と滑らかな動作で、人間味を感じないほどだった。
「類沢、先生」
 目を見つめ合う。
 乾いた唇が動いた。
「……雛谷先生に、バラしたんですね?」
 なにを。
 そんな質問など存在価値もない。
 バラした。
 あの保健室の日のこと。
 その後のこと。
「僕の口からは何も告げてない」
 瑞希は片眉上げた。
「雛谷は知ってたんだ」

 月明かりが二人を照らす。
「宮内瑞希ですよね? かわいい生徒を目につけたじゃないですかぁ」
「……なんのことです?」
 顎に力を入れる。
 そうすれば、表情を崩さない。
 雛谷は歪んだ笑みを浮かべ、小さなカメラを取り出した。
 嫌な予感しかしない。
「二週間前のことです」
 カメラを操作し、写真を探す。
「仕事帰りに、こんな光景を見てしまったんですよ」
 光る画面を突きつけられる。
 それは、ホテルの玄関の写真。
 二人の人影。
「これ、類沢先生ですよね?」
 確かに自分の横顔だ。
「隣は宮内瑞希ですね?」
 言葉が出ない。
 不覚だった。
 勿論可能性は踏まえていたが、まさかこの男に見られるとは。
 生徒から噂は聞いていた。
「随分犯罪紛いのことを……くく」
「それが何だって云うんです?」
 雛谷はカメラをフラフラ揺らす。
「いえね、早く瑞希を救ってあげたいと思いましてねぇ」
 チラッと目線を送ると、雛谷はカメラをしまった。
「その予告です」

「……知ってた?」
 静かに頷く。
「雛谷先生が?」
「そうだ」
「あんたが云ったんじゃないのかよっ!」
 突然の大声に鼓膜が震える。
 類沢は腕を組んだ。
「だって……雛谷先生、は……あんたに聞いたって!」
「彼の嘘だよ」
「どっちが信じられる!」
 呼吸が止まる。
 瑞希は荒い息のまま、寝室に駆け込んだ。
「どっち……が?」
 類沢は頬に触れて立ち尽くした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ