どこまでも玩具
第8章 任された事件
翌朝、瑞希は出て行った。
朝食も食べずに。
洗濯しておいた制服を着て、借りた服は畳んで。
また一睡も出来なかった。
類沢は保健室の椅子にもたれかかる。
しかし、講演会も近い関係で書類は減らない。
カリカリと、ボールペンを動かし続ける。
風がカーテンを揺らす。
頭痛も運んで行って欲しいものだ。
切れた煙草は帰りにでも買おう。
―どっちが信じられる!―
昨夜の瑞希の言葉が脳裏に浮かぶ。
最近、同じ言葉を言った。
―瑞希からしたら狂ってるのはどっちかな―
どっちも、か。
苦笑いを漏らす。
髪を掻き上げ、書類に目を落とす。
早く、仕上げてしまおう。
放課後、背広姿に着替えて屋上に向かった。
白衣では、動きづらい。
鍵は空いていた。
そうだろうな。
「あ、類沢先生じゃん」
「また来たんすね」
「昨日はどうもー」
コイツ等がいるのだから。
合い鍵でも持っているのか。
床にはチューハイが転がっている。
「訊きたいことがあるんだけど」
それらを足で押しのけながら近づく。
「なんすか」
少し酔っている。
まだ六時過ぎだというのに。
呆れながら、リーダー格の一人の前に立つ。
「瑞希のこと」
「あー……類沢先生そっちのケがあんだ?」
「マジ?」
「女子にモテんのに」
五月蝿い。
拳を握り締め、自分を抑える。
「一昨日、瑞希はそこにいたんだよね?」
倉庫を指差す。
「あんたが入れたんじゃねぇの?」
ゆっくりと睨み、黙殺する。
男子達は些か怯んだようだ。
「その時撮った写真と携帯番号、今持ってる?」
一人がポケットを探ったまま固まった。
リーダー格の男にアイコンタクトをするがもう遅い。
類沢はニコリと微笑むと、男の手を掴み引き寄せ捻り上げた。
「っ……あがッッ」
残りの二人が構える。
だが、リーダーを押さえられてる状況ではすぐに動けない。
「丁度良い。腕が折られる前に、それ全部消してくれる?」
「て……んめ」
ギリッ。
「ぎッッ」
男の歪んだ顔を見下す。
密着した体が荒く脈打っている。
この程度で。
その足を蹴り、体勢を崩させる。
類沢は携帯を持った一人に、男を引きずりながら詰め寄った。
「早く消しなよ」
乱暴に運んだせいか、男の息が絶え絶えになっている。
「もう折れたかもしれないね」