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どこまでも玩具

第2章 荒らされた日常

「瑞希おっはよっす」
「……金原」
 壁際をフラフラと歩いていた俺を親友が見つける。
 今にも吐き気に負けて倒れそうだ。
 学校中あいつの匂いがするから。
「お前、顔色悪いぞ」
「大丈夫、…大丈夫だから」
「そうか? なんなら保健し」
 バンっ。
「……み、ずき?」
 俺は無意識に思い切り壁を叩いていた。金原がおびえている。
 保健室。
 今一番聞きたくないワード。
 吐き気の原因。
「……大丈夫、つってんだろ」
「あ、悪い」
 周囲の生徒が窺っている。
 気まずくなって、俺たちは教室に急いだ。
「金原、おはよー」
 紅乃木が手を振る。
 紅乃木哲(くのぎさとる)。
 小学校からの馴染みだ。
 赤髪で、名字に因んでアカと呼ばれている。
「アカ元気だな」
「金原もな」
 二人はだるくハイタッチする。
 俺はその横を通り過ぎて、机に向かった。すぐに紅乃木が追いかけてくる。
「みーずーきー」
「アカ……今一人にしてくれるか」
「やだぁ」
 紅乃木は駄々こねるように肩にしがみつく。
 ぞわり。
 離れろ。
 俺は震えながら紅乃木を押しのける。
「あれ、ツレナくない?」
「今日、瑞希変なんだよ」
 そりゃ変だよ。
 俺は毒づきながら席に着く。
 結局二時から眠れなかった。
 あの疼きがずっと離れなかった。
 今もだ。
 油断したら腰が落ちそうになる。
 処理なんて知らない。
 緩くなった体は、どうしたって戻らない。
「瑞希」
 俺はビクリと強張る。
 担任の篠田だ。
「ちょっと来い」
 何でだよ。
 担任を睨む。
「早く来い」
 金原とアカも一緒に睨む。
 俺が立つと二人も同時に立った。
「瑞希だけを呼んでいる」
「……るせーな。理由も云わずに生徒呼びつけんなよ」
「本当……みーずきに失礼だよね」
 空気が少しずつ固まる。
 篠田が前に出る。
「席に着け。授業始まるぞ」
「じゃあ尚更、瑞希に迷惑だろ」
 俺は手を上げて二人を制する。
 紅乃木が出掛かって留まる。
「行くから。二人はいいから」
「瑞希……」
 俺は篠田に怒りを込めて足を出す。
 篠田に廊下に連れ出される。
 すぐにチャイムが鳴った。
「…てめぇ」
「そう怖い顔するな。慣れただろ」
 篠田は笑い、階段を降りる。
 その背中に、何も縛られてないのについて行く。

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