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どこまでも玩具

第9章 質された前科

「ひぁあッッ……」
 四度目。
 父の白濁が中を駆ける。
 吐き気がこみ上げる。
 胃まで逆流してるんじゃないかって質量が腸内で暴れている。
 体を密着させて父に抱き締められる。
 繋がったままで。
「ああ……哲。幸せだよ。こんなに大きくなった哲を抱けるなんて」
 返事も出来ない。
「ずっと一緒だ」
 母さんから連絡があった。
 父さんが入院して三日後に。
 おれが裁判で判決を受ける朝に。
「一緒に暮らそう」
 たった一言。
 あの日、拒絶した一言。
 まだ、あなたは諦めてなかった。
 ツーっと涙が受話器に流れ、この音が伝わらなきゃいいななんて思った。
「迷惑かけるから……」
 母さんは黙った。
 否定も肯定もしてくれなかった。
 迷惑かけるから、行かない。
 迷惑かけるから、でも行きたい。
 迷惑かけるから、それでもいいの?
 生唾を呑む。
「じゃあ、ね」
 受話器を置くまで、母さんは切らなかった。
 多分、他の言葉を待ってたんだろう。
 なんて奴。
 頭を掻き毟る。
 なんて奴。
 判決は妥当だった。
 頭を冷やすのに良い期間。
 学校に行かなくて済むのは救いだ。
 そう、誤魔化して。
「その髪どうやって染めた?」
「格好良すぎだろ」
 こんな関係を待っていて。
「変だろ?」
「なに言ってんだよ! ヤバいって。すげーって」
「なぁ、紅乃木。アカって呼んでもいいか?」
「……え?」
「紅乃木の紅ってアカって字だし、その方が呼びやすいし」
「宮内……」
「瑞希でいいから」
「オレは金原で」
 こんな関係を待ち望んでて。

 バン。
 車を降ろされ、建物に入る。
 驚いた。
 前の家じゃない。
 二階建て。
 どこからこんな家を。
 薬が解けたのか、普通に動ける。
 父は、何も言わずに中に入って行った。
 キョロキョロと通りを確認する。
 閑静な住宅街。
 人はいない。
 一台のワゴンが走り去って行き、それからはただ静か。
 帰り道もわからない。
 携帯と財布が入った鞄は家の中だ。
 取りに行かなくてはならない。
 いっそ走ってどこまでも行ってみようか。
 そんな考えもチラつく。
 逃げろ。
 なにしても逃げろ。
 それを阻止する声も。
 どの道住所はバレてるんだ。
 瑞希達に迷惑かけることになる。
 携帯を押さえられれば危険だ。

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