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どこまでも玩具

第9章 質された前科

 机に額をつけたまま、沈黙に耐える。
 じわじわと緊張が走る。
 何か言って欲しい。
 十数秒経ったろうか。
 押し殺した笑い声が聞こえた。
 それから、やっと。
「顔上げなよ」
 ゆっくり、頭を起こす。
 すると、首を掴まれそのまま引き寄せられた。
「ん……」
 瞬く間もなく唇を奪われた。
 目を閉じる。
 軽いキスかと錯覚する優しい口づけが、段々と熱くなる。
 お互いの息が聞こえると、余計に頭がぼうっとしてしまう。
 舌先がいつもより濡れている。
 絡め取られたそれが、何度も咬まれた。
 びくりと身を引こうとするが、しっかり頭を支えられている。
 机越しのキス。
 ギシリと類沢の置いた手が机を軋ませた。
 口端から唾液が零れそうになり、口を窄ませると、自然に唇が離れた。
 すぐに寂しさが襲う。
 目を開けると、類沢がじっと見つめていた。
 ニィッといつもの微笑みを浮かべ、頬を撫でながら手を唇に持ってくる。
 その指の感覚にぞわぞわする。
 訴えるように見上げた先で、類沢はこう言った。
「謝っても許してなんかあげない」
 あくまで笑顔。
 優しい笑顔。
 なのに、寒気が背筋を侵す。
 俺は静かにその手を掴んだ。
 類沢が片眉を上げる。
「……知ってました」
「あははっ」
 朗らかに笑うと、俺の髪を梳いた。
「なら尚更訊きたいな」
「え?」
 類沢はさっきまでのようにソファにもたれる。
 片足を曲げ、手を絡ませて。
「よく僕に助けを求められたね?」
 この、サディスト。
 俺は真っ赤になって睨む。
 多分、云わせたいんだろう。
 知ってるから。
 今のキスで全部読み取ったから。
 だから、尚更。
 下唇を噛み締める。
 まだ舌がジンジンしている。
 くそ…
 悔しい。
「……い」
 類沢が首を傾げて此方を見る。
 声よ、震えるな。
 真っ直ぐ類沢と目を合わせる。
 息を吸う。

「云ってなんか、あげないっ」

 カァアアっと熱が上る。
「ははははっ」
 バカだ。
 バカ。
 俺は顔を押さえて突っ伏した。
 類沢の笑い声が降り注ぐ。
 よく言えたな、俺。
 グルグル。
 恥で燃えてしまいそうだ。
「くく、瑞希は本当にバカだ」
 そうです。
 身を起こす。
「じゃ、話を始めようか?」
 始められる状態じゃない。

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